なぜ、今、北斎なのか? 東京五輪を前にヨーロッパの熱気を逆輸入
江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849年)。今年4月に没後170年を迎えるが、その作品は1世紀半を越す年月を経ても褪せることなく、さらに輝きを増して世界のさまざまなシーンに登場している。東京オリンピックを控えた日本国内でも北斎関連のイベントは目白押しで、一大ムーブメント巻き起こしつつあるのだ。しかし、なぜ、今、葛飾北斎なのか? その背景を探ってみた。
モスクワに出現した神奈川沖浪裏
昨年末、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」を描いたモスクワのマンション建物の写真がツイッターに投稿され、ネットを中心に大きな話題になった。発信したのはモスクワ市長のセルゲイ・ソビャニン氏。6棟の建物壁面に描かれた「神奈川沖浪裏」は、北斎の代表作「冨嶽三十六景」全46図の中でもっとも人気の高い作品でもある。 マンションはロシアの大手建設会社、エタロン・グループがモスクワ南西部ブトヴォ地区に建設しているニュータウン「エタロン・シティ」にある「東京」と名付けられたタワーマンション。ソビャニン氏のツイッターによれば、すでに地域のランドマークになっているという。北斎の絵を起用した理由について、エタロン・グループにメールで問い合わせたところ、担当者から「葛飾北斎の絵は、ロシアや世界中で日本の象徴とされていることから選ばれました」との回答が返ってきた。 「神奈川沖浪裏はヨーロッパではグレートウェーブと呼ばれて知らない人はいません。モナリザの次に有名な絵です」。こう話すのはイタリアの高級宝飾品ブランド、ブルガリの日本法人代表を務めたこともある株式会社新高コーポレーション代表の高橋新さんだ。ヨーロッパのブランドを日本に紹介する仕事にとどまらず、日本の伝統や文化、職人技を海外に紹介する仕事をしたいと自ら会社を立ち上げて、神奈川で日本とヨーロッパを結ぶ取り組みを進めている。 「ヨーロッパでこれだけ知名度のある北斎の絵が描かれた場所が、神奈川には7カ所もあるのです。しかも、世界的に有名な神奈川沖浪裏には神奈川の名前も入っている。にもかかわらず、これまでほとんど関心がもたれてこなかった」と話す高橋さん。今、神奈川から北斎を発信して海外の人たちに神奈川に興味をもってもらうプロジェクトに乗り出している。高橋さんによると、ヨーロッパにおける昨今の北斎ブームは2000年以降、世界の主要都市で開催されてきた北斎展によるところが大きいという。どういうことだろうか?