「自然を回復すれば、投資を得られる」時代に、企業に求められる地域とのつながり
森の課題は「忘れられていること」
── 今回は、自然資源のなかでも「森林」に注目したいと考えています。企業は具体的に森林のネイチャーポジティブをどう進めれば良いと思いますか? 長野 よく同じ質問をされるのですが、私は「森づくりに正解はない」と思うんですよ。森林ごとに植生や自然条件、期待される役割など状況が全く違うので、その森でその時点で正解だと思う方法を実践してみて、観察して、間違っていたらまたやり直す......というのを中長期的なスパンでやり続けるしかない。もっと多様な森づくりが広がるとよいと思っています。 藤田 よくわかります。自然って地域地域で異なるので、その地域で解決策を見出していくしかないのですよね。その地域ごとに、このゴールに向かってこのようにして自然を守る、というストーリーが必要ですよね。ストーリーをつくるステークホルダーの中には、地域の人々に加えて、自治体も、企業も含まれる。 長野 そうなんです。「なんでこの企業が私たちの地域の自然に関わるんだろう?」と疑問をもたれないように、地域の人たちと一緒に森づくりに協力してもらいたいですよね。 そして、自然に関わる人が変われば、その自然を守るためのストーリーも変わってくる。だからこそその土地ごとのやり方が必要になります。森に関わるみんながその土地らしさ(ローカリティ)を理解していて、企業がその森に関わるストーリーがあって、情熱を持って取り組み続ける人がいる。そうしてはじめて、企業のネイチャーポジティブはうまくいくんじゃないかと思います。 ── 「自然を守る方法」に、どこにでも当てはまる正解はないと。では、いま森林が抱える一番の課題とはなんだと思いますか? 長野 それは「森林が忘れられていること」です。里山や山林が手入れされず、活用されない森林資源が増えている。先人が苦労して植えてくれたものが400年ぶりにフサフサになっているんですよ。昔は多くの人々が森の恵みで暮らしていたから当たり前に木を使い、手入れをしていたけれど、いまは木が身近ではなくなってしまった。 藤田 世界の状況からみても、日本は珍しいんですよね。ここ数十年で森林の面積自体はほぼ横ばいなのに、人工林を中心に森林蓄積(森林の木々の幹の体積)は50年間ずっと増え続けている。 ── つまり森が残りすぎて、うまく活用されていないことが問題?