「自然を回復すれば、投資を得られる」時代に、企業に求められる地域とのつながり
長野 これだけ経済発展して森が7割も残っているのは奇跡的なことで、先人に感謝です。日本に人の手の入っていない原生林はわずか。日本では昔から、森を手入れし、森とともに生きてきた歴史があります。人の手の入った森は手入れをし続ける必要があり、私たちは次の世代に豊かな森を引き継いでいく責務があります。 藤田 いまの状況の原因は、やっぱり昭和40年代の拡大造林(※)で植えたものが活用されていないからですよね? ※戦前・戦後の大量伐採で荒廃した森林の復興や、経済発展に伴う木材需要の高まりに応えるため、昭和40年代からスギやヒノキといった針葉樹を植樹する「拡大造林政策」が推進された 長野 そうなんです。戦後造林した木がまだ十分育っていない期間に海外から木材を仕入れるようになって、その間に国産材のサプライチェーンが途切れてしまった。 日本の地域ごとの林業の規模は小さいので、地域同士を繋いでいく人がいないと安定的に国産材が流通できないんです。 藤田 山で木を切っても、日本の急峻な斜面を下ろすのにコストがかかる。下ろしても、製材所も、加工できる人も減っている。サプライチェーンがつながらなくなったんですよね。森林組合に就職しても年収がそれほど高くないから若者にはあまり人気のない仕事になってしまいました。今は少しは改善されたでしょうか。 長野 木材需要を増やし、サプライチェーンを繋ぎ直すことで、地域で森林資源が循環できると思うんです。常日頃から各所とコミュニケーションを取り合って、半年くらい先に必要な木材の量を常に把握するような計画利用、計画生産ができれば、山で在庫ができるようになります。また、森は木材生産だけでなく、年間70兆円を超える様々な環境価値があるので、林業だけでなく森全体で稼ぐ森林業を異業種の人材や技術を取り入れて盛り上げていきたいですね。
ローカリティーへの理解とストーリーが、企業と地域を繋げる
── 先ほど、企業が森林の保全に取り組むためには「ローカリティとストーリーが必要」というお話が出ました。それはほかの自然資源に向き合う時にも同様でしょうか。 長野 もちろん。企業は、自然にアプローチできればどこでもいいというわけではありません。地域のステークホルダーと真摯に関わるためには、「なぜ私たち企業がこの森の保全に取り組むのか」と、説明する必要がありますから。 ── なるほど、企業がその地域で活動することの文脈や縁があってはじめて、地域の人たちも納得できる。