「自然を回復すれば、投資を得られる」時代に、企業に求められる地域とのつながり
藤田 企業側としては、「地域の人々と組みたい」という思いもあります。いま、多くの企業が地域の課題解決に大きなポテンシャルを感じています。自治体や地場産業の方々、地域の生活者や若いZ世代など、そうした方と交流して新しいものが出てくることに大きく期待しているんです。 長野 森林と関わる立場から言えば、地域で自然に関わってきた方々の側も「こういう価値があるから一緒にやってほしい」と主張する必要があるな、と思っています。森を守ってきた人たちはずっとそこにいて客観的な価値の変化に気がつかないので、外の人たちの目で見てもらって、「他の森と比べてここが強みじゃないですか」って見つけてもらうことが必要なんです。 藤田 地域に関わりながらも、客観的な視点を持って、その地域の自然の価値を伝えられるコーディネーターみたいな人が重要になりますね。長野さんも私もそうかもしれません。 ── 地域とともに企業が自然のストーリーをつくった良い事例ってあるでしょうか。 藤田 少し関係のある、海の話をしてもいいですか。
藤田 いまから3年前、インド洋のモーリシャス沖で貨物船の座礁と油の流出事故があり、漂着油の一部がマングローブ林に絡みつくなどしました。船主ではなかったんですが、その貨物船をチャーターしていた商船三井が記者会見を開き、10億円規模の支援策を打ち出したんです。 それから3年間、同社は現地の方々や、研究者、NGOなどさまざまなステークホルダーとの話し合いを重ねて、自然の回復や再生、そして地域振興に取り組んでいきました。事故を通して彼ら自身が「大きな転機になった」というんです。 ── 転機、というと? 藤田 ESGやSDGsが腹に落ちてしっかり根づいたと話していました。自然の回復・再生の支援活動を行うなど現地の住民やNGOと深く関わるうちに、事故以前からある経済や環境などの課題も見えてきたそうなんです。 そこで、美しい海で水産資源を守りながら漁業を行う持続可能な水産業や、持続可能な観光業など、環境に配慮しながら経済振興も行う活動へと支援を広げていった。 そのうち「海の問題は、農業や森林など陸とも関係がある」として、中小規模農家への有機認証の農業への支援もはじめた。現地の方々の経済的自立がないと問題は解決しないということで、海を起点とした経済振興『ブルーエコノミー』を進めています。 いまでは商船三井が設立した基金を通して色々な人たちが繋がって、現地で地域課題解決に結びつく雇用も生まれているそうです。