「自然を回復すれば、投資を得られる」時代に、企業に求められる地域とのつながり
ネイチャーポジティブの取り組みが、投資に直結する
── いま、自然環境保全について語る上で企業の「ネイチャーポジティブ経営」が大きく注目を集めていると思います。この「ネイチャーポジティブ」とは何か?というところからお話ししていただけますか? 藤田 ネイチャーポジティブを端的に説明するなら、「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させること」です。噛み砕いて言えば、「自然がすごく減ってきているから、自然の損失を止めて、上向きに回復していく道筋を取り戻しましょう」ということですね。 ── その背景には、どのような世の中の流れがあるのでしょうか? 藤田 背景として大きいのは、2022年にモントリオールで開催された生物多様性条約のための国連会議で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」という世界目標が定められたことです。 2030年までを目標に、自然を回復軌道に乗せるための具体的な行動目標が定められました。 気候変動でいうところのパリ協定とも言えるのですが、特徴的だったのは企業の行動に焦点を当てた目標が多かったこと。自然資源の回復は、企業も取り組むべき課題だと強調されたんです。
── 世界基準で、自然の損失を食い止めるための動きが求められはじめた。 藤田 ただ、企業が活動すればどうしても自然の損失は起こるはずなんですよね。建物を建てるには木材などの自然資源が必要だし、食品を製造するにも自然の恵みを調達するわけですから。そんな資源を目減りさせないように、大切に使うことが重要になっています。 さらに、企業がなぜこんなにも保全や再生へ動き出したかというと、ネイチャーポジティブの取り組みが、金融や投資の文脈と繋がってきているからなんです。 特に日本では2015年以降、投資家たちのなかで、環境配慮や人権配慮をしている企業に投資をする流れが活発になってきました。
── ESG投資の流れですね。過去にこのメディアでも取材をしました。 藤田 たとえば、社有林を持つ企業がそこで生態系に配慮した森づくりをすれば、地域全体の生物多様性が向上するかもしれない。その森が水を育むなど飲料会社の本業に結びつけば、投資家からの評価が上がり、企業価値に繋がる訳です。 さらに、企業がインセンティブを得られる仕組みも、いま整備されつつあります。 ── 具体的に、どのように企業はインセンティブを得るのでしょう? 藤田 簡単にいえば、企業のネイチャーポジティブに関する情報開示が、投資家から投資を得るチャンスに直結していくようになります。 今後、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)というフレームワークに基づいて、企業が自然資源に対して与える影響やリスクなどの情報開示が求められるようになります。 どんな企業も自然に依存し、影響を与えて事業活動をしていますから、どの程度影響を与えているか調べて、把握し、開示するべきだという動きです。開示の情報を読むのは投資家ですから、先程の投資の流れにつながる。 企業はいま、自分達が自然に与えている影響をリサーチし、自然のどの部分に対して優先して取り組んでいくか?を決める段階です。さらに、対策を練って企業戦略に結びつけたり、取り組みを開示したりするフェーズになってきています。