人の皮を使った本も 書物に狂わされた人々──装丁への妄執、自動筆記、行方不明の原稿
H・G・ウェルズ『宇宙戦争』
『サド侯爵の呪い』の登場人物のひとり、フレデリック・キャスタンは、アリストフィル社のレリティエの拝金主義的なやり方に異議を唱えたパリの手稿ディーラーだ。 キャスタンは作品を愛しているが故、取引相手がふさわしい顧客かどうか見極めるために、1938年に放送されたラジオドラマ『宇宙戦争』の台本を披露することにしていた。非常に稀少な台本だったのでそれにどんな反応を示すかを見たかったのだ。 この台本は、映画『第三の男』で名優として知られたオーソン・ウェルズが脚色したものだった。その台本をオーソン自身が朗読したのだが、それがあまりにも真に迫っていたために、リスナーは火星人に地球が侵略されると信じこんでパニックを起こし、さらには警察まで出動したという有名だがにわかには信じがたい話がある。 番組の冒頭で、小説であることは説明していたようなのだが、ほとんどのリスナーをその部分を聞いていなかったようだ。1938年といえば、第二次世界大戦がまさに始まろうとしていた時期であり、世界全体に不安が広がっていた。そう考えると、あり得る話かもしれない。 以上、ここでは3作品を紹介させていただいたが、こうした裏ドラマを持つ作品は、『サド侯爵の呪い』にほかにも出てくるので、注目していただくのも楽しいと思う。 【参考】 エドワード・ブルック゠ヒッチング著、高作自子訳『愛書狂の本棚 異能と夢想が生んだ奇書・偽書・稀覯書』(2022年、日経ナショナル ジオグラフィック) afpbb.com/articles/-/3355956 jp.quora.com/jakku-keruakku-no-rojou-on-za-ro-do-ha-dono-you-ni-kaki-age-ra-re-ma-shita-ka kawade.co.jp/ontheroad/ globe.asahi.com/article/14663752 nationalgeographic.com/science/article/war-of-the-worlds-behind-the-panic
文=中西史子+金原瑞人