脳オルガノイドは「人」と見なせるか 若手の生命倫理学者と法学者が別々の観点から考察
近年、iPS細胞やES細胞に関する研究が進んでいる。そうした多能性幹細胞から、人体を構成する末端細胞にとどまらず、人間の脳組織である「脳オルガノイド」も作られている。2023年、脳オルガノイドを法的に「人」と見なせるかという論文を広島大学などの研究グループが発表した。若手の生命倫理学者の観点からの問いかけだ。同じく若手の法学者はこれにどんな観点で答えただろうか。
海外では倫理が議論される一方で開発競争が激化
オルガノイドとは試験管内やシャーレ上で多能性幹細胞を培養し、自発的な複製と分化を誘導して得られる3次元の構造体だ。「臓器(organ)のようなもの」という意味でオルガノイド(organoid)と命名された。脳オルガノイドは脳に似た3次元組織だが、現在のところ人間の脳のような複雑な機能を持つとは考えられていない。 広島大学大学院人間社会科学研究科の澤井努准教授(生命倫理学)の研究グループは、2023年3、4、10月と立て続けに脳オルガノイドに関する論文を発表した。その一つが「脳オルガノイドは法的に人と見なせるのか?」というものだ。澤井准教授は京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)連携研究者でもある。
澤井准教授によると、脳オルガノイドの研究について、海外では倫理的課題が盛んに議論される一方で、開発競争が激化している。オーストラリアのスタートアップ企業はコンピューターを神経細胞に電極で接続した計算システムをつくった。また、脳オルガノイドに電気刺激を与えると赤ちゃんと同じような脳波が見られたという報告もある。複雑な神経活動をしていることもあり、脳オルガノイドは意識を持つのかどうかという問題が以前から議論されてきた。
「産まれて」いなければ生きる権利はないのか
科学者の間では脳オルガノイドが意識を持つのはまだ先と考えられている。しかし、「現在の脳オルガノイドが意識を持つと言える理論は有り得る」「仮に脳オルガノイドが意識を持っていたとしたら、それは倫理的・法的配慮の根拠になるのか」「高度な認知機能があればヒトと見なしてもよいのでは」「ChatGPTのようなAIの議論も脳オルガノイドの議論と関係するのか」など、様々な問いが既に挙がっている。