子どもに勝ち負けを押し付けてない?――元JOC理事が考える怒ってはいけないスポーツ教育
東京五輪が開催された今年は、スポーツへの関心が集まった一年だった。また、世の中のジェンダーやハラスメントに対する意識の高まりから、スポーツをとりまく環境も見直されつつある。スポーツ全般の普及発展に努めている、元JOC理事で筑波大学教授の山口香さんは「スポーツの指導者も変化してきている」と話す。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース)
スポーツの指導者も時代とともに変化している
昨今、「スポーツは厳しく指導するもの」という指導のあり方が見直されている。そのきっかけのひとつが、2013年1月に女子柔道選手15名による、指導者のパワーハラスメント告発だ。山口さんは女子柔道選手らからハラスメントについて事前に相談を受け、JOCへの告発の手順を示すなど、彼女たちをサポート。後任の南條充寿監督も女子の金メダリストたちを特別コーチにそろえ、選手やコーチが監督に意見を伝えやすい環境づくりに取り組んできた。 ――2013年の女子柔道選手によるパワハラ告発以降、さまざまな分野で指導者の変化が求められています。 山口香: 昔は、学校の規律に従わせるために声の大きい先生が重宝されていました。例えば体育の先生だったりとかね。大きな声を出してピリッとさせるのが教育であるとはき違えている部分もあったでしょうね。 スポーツを教えていく場合には、技術をどう伸ばし、伸ばした技術をどうやって発揮させるのかが大事になってくる。コーチの言うことをきちんと守ることが第一ではないのだと、指導者の人たちにきちんと理解していただかなくてはいけないですよね。 ――スポーツをしていると「負けて悔しくないのか」と指導者に怒鳴られて泣くシチュエーションが見受けられます。 山口香: それはやっぱりおかしいですよね。例えば試験を受けて落ちるときも、最善を尽くして本当に頑張ったんだけど試験に落ちた、というのだとしたら、悔しいという気持ちは自然に出てくると思うんですね。 だけど、そもそもスポーツで楽しむためにやっている人が負けたときに「今日は何かいい試合できたよね」とか「自分の技が3回かけられた」というのは全然悪いことじゃありません。ただ、勝ち負けにこだわってきた指導者が、自分の価値観だけで良し悪しを決めてしまっていて、そうした姿勢を受け止める度量がまだまだ足りないんだと思います。 ――そうした文化や作法は、スポーツ少年団や部活動にまで広く染み込んでいますよね。 山口香: ただ、最近の指導者たちはすごく勉強している方が増えてきたと思います。海外で学んでいる指導者も多いです。それに、自立して意識が高い選手たちが増えているので、指導者が変わらなければ信頼されないのが肌感覚でわかるわけですよね。そうして切磋琢磨して、いい関係が築けたことが、東京五輪で多くのメダルにつながったんじゃないかなと私は思っています。 実際に、先生が「明日はもっと良い指導をしよう」「子どもたちをもっと笑顔にしよう」という気持ちで道場やピッチに立てば、その気持ちって子どもたちに伝わりますよね。楽しんだ先に適度な疲労感があって、「先生、今日もぐっすり眠れそうです。明日も頑張ります」という爽やかさがあったらすごくいいなと思います。