子どもに勝ち負けを押し付けてない?――元JOC理事が考える怒ってはいけないスポーツ教育
女性の健康やセカンドキャリアはアスリートだけの問題じゃない
2020年には陸上長距離の新谷仁美選手が、過去に指導者から「生理なんてなくていい」と言われたことをSNS上で告白して話題となったが、それ以前から女性アスリートの無月経や出産についての知識やケア不足が問題視されている。 ――過去にスポーツ界では女性の健康が軽視されていました。 山口香: ケアが進んでいない時代でも、「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールしかり、日本の女性のアスリートたちはすごく活躍していました。ただ、そうしたごく一部の、ケアされなくても生き残った選手たちがいると「やっぱりケアがなくても活躍できるんだね」とケアしなくていい理由がつくられてしまう。 でも、ケアしてもらっていたら、ドロップアウトせずに才能を開花させることができた人たちもいたでしょうし、選手層ももっと厚くなっていたはず。だから「今、試合に勝てていてスポーツ選手として成功しているんだから、ケアする必要なんてない」という風になってしまってはいけないですよね。 ただ、現在のトップ選手たちは科学的な知見をもとにトレーニングをして、技術を学んでいるので、少しずつ変わってきているとは思います。 ――女性アスリートのセカンドキャリアと出産も切り離せない問題ですよね。 山口香: 元アスリートの女性が指導者やテレビのコメンテーターとして当たり前のように活躍するようになってきていて、セカンドキャリアの多様な可能性が開かれつつあるのはとても良い変化だと思います。 ただ、スポーツの指導や練習の時間はどうしても夜遅くなりがちです。となると、子育て中だと、子どもの預け先がなければ、競技と育児のいずれかを選ばなければいけないのが現状。スポーツ団体・協会が18時以降は練習をいれない、ベビーシッターを用意するといった体制づくりをすれば、活躍できる女性アスリートがもっと増えていくと思います。 こうした女性の体の問題や出産後のセカンドキャリアの問題は、アスリートに限った話ではなく、一般の方にも当てはまることです。例えば、生理のときのスポーツの仕方、出産の前後のケアの仕方、健康を害さないダイエットの仕方、働き方改革。そうしたものをスポーツ界からどんどん発信すれば、ジュニアの選手たちにも、若い女性の方にも貢献できるんじゃないかなと思います。