銃乱射事件で殺されたウジ君が語り出す……AIで復活した故人を社会活動に参加させることはどこまで許されるか
ドラッグや銃乱射事件などが後を絶たない米国では、そうした事件・事故の被害者をディープフェイクなど各種AI技術を用いて“復活”させ、故人自らが自身のストーリーを語り、選択を悔いるというコンテンツが作られている。本人が語ることによる啓蒙効果は大きいが、果たして亡くなった本人がそうした復活を望んでいるのかは定かではない。AIを巡る最前線の動きを考察する。(小林 啓倫:経営コンサルタント) 【実際の画像】「The Shotline」に登場するウジ・ガルシア君。彼も生成AIの力によって今の世界に蘇った。「ハーイ、僕はウジ・ガルシア!好きなのはビデオゲーム」と語っている。 ■ 「僕が死んだなんて、まだ信じられない」 米ミズーリ州カンザスシティの当局が発表した、ある動画が注目を集めている。まずはその動画をご覧いただこう。これは「Unfinished Legacies(未完の遺産)」というキャンペーンのために制作されたもので、タイトルは「ジョーダン・コバーンの最後の言葉」だ。 登場する男性は、いきなり衝撃的な言葉を口にする。「僕が死んだなんて、まだ信じられない」と言うのだ。 「彼」がタイトルにもあるジョーダン・コバーンという人物なのだが、彼自身の言葉によれば、ジョーダンは1カ月前に交通事故に遭い、激しい痛みに苦しんでいた。すると彼の友達が、痛みを和らげるからといって錠剤をくれた。 ところがその錠剤には、オピオイド系鎮痛剤「フェンタニル」の成分が含まれていたのである。 フェンタニルはFDA(米食品医療品局)から鎮痛剤および麻酔剤としての使用が許可されており、ヘロインの50倍、モルヒネの100倍の鎮痛効果が認められている。しかし、当然ながら致死量があり、彼はフェンタニルが含まれていることを知らずに錠剤を服用した結果、命を落としてしまったのだ。 ◎フェンタニルについて(米麻薬取締局) 「自分の身に起きたことが、子供たちが僕について覚えていることになってしまうなんて嫌だ。末の息子には会うことすらできなかった」と、ジョーダンは無念さを口に出している。 前述の通り、フェンタニルは米当局からの承認も受けている薬品である。しかし麻薬の売人が、より低コストで高揚感を得られる麻薬を作るために、それをヘロインやコカインといった違法薬物と混ぜ合わせるという行為を行っている。 そうして生まれる偽の錠剤(もちろん違法な麻薬だ)は、薬局で市販されている薬と見分けがつかないことが多く、外見だけではフェンタニルが含まれているか、ましてやその量が致死量に達しているかどうかなど判断できない。 実際に2022年に米当局が分析した、フェンタニルが混入している偽造錠剤10個のうち6個には、致死量のフェンタニルが含まれていたそうである。 ◎DEA Laboratory Testing Reveals that 6 out of 10 Fentanyl-Laced Fake Prescription Pills Now Contain a Potentially Lethal Dose of Fentanyl(米麻薬取締局) その結果、いま米国では、フェンタニルが混ざっていると知らずに摂取してしまうケースも含め、フェンタニルを混在させた麻薬によって大勢の死者が出る事態となっている。カンザスシティでも、フェンタニル関連の死亡者数は過去5年間で10倍以上と、驚異的な増加である。 当局もさまざまな対策に乗り出している。冒頭の「Unfinished Legacies」は、カンザスシティが取り組む啓蒙キャンペーンの一例だ。 しかしなぜ、亡くなったはずのジョーダンが自分の死について語れるのか。その答えは、冒頭の映像の途中で流れるテロップで明かされている。それによれば、「彼の家族、そしてAIの力を借りて、私たちはジョーダンの最後の言葉を作成しました」とのことである。