イチゴと棚田で千早赤阪村を元気に 府と村が合同プロジェクト
棚田は米作りを通じて人が交流する場へ進化
千早赤阪村は府南東部に位置し、金剛・葛城山脈の主峰金剛山を擁する府内唯一の村だ。歴史ファンには南北朝期の武将楠木正成ゆかりの地として名高い。 小高い展望台から、斜面に階段状に広がる棚田を見下ろす。「日本の棚田百選」にも選ばれた下赤阪の棚田だ。正成が築城したとされる下赤阪城跡に程近い。開発起源は室町時代までさかのぼることができるという。緑の稲がゆったり風にそよぐ情景に、身も心も溶け込んでいく。 労を惜しまない手入れが棚田を支えてきた。しばし農作業の厳しさを忘れ、「おいしい米が自慢」と話すのは、地元農家の千福清英さん。「下赤阪棚田の会」の会長を務め、先人たちから受け継いできた美しい棚田を守り、次世代へつなぐことに力を注ぐ。 千福さんは「プロジェクトを通じて、ひとりでも多くの皆さんに棚田に関心を持ってもらいたい。11月11日には棚田でイベントを開催しますので、ぜひお越しください」と呼びかける。 イベントは恒例の「棚田夢灯り&収穫祭」。棚田がライトアップされる他、新鮮な農産物を即売する物産市などが開かれ、村が大いに盛り上がる。 プロジェクトを先導するかたちで稲田のファンクラブができており、棚田にほれこんだ上地正幸さんが地域おこし協力隊に任命され、今春から棚田の保全活動に乗り出している。棚田は米作りを通じて人が交流する場へ進化しつつあるようだ。
目標は5年で20人程度の新規就農者迎え入れ
イチゴ生産者福永洋一さんの農場を訪問すると、苗を育てる作業に追われていた。会社勤めをやめて就農して5年目。研修を受けて生産に着手したが、1年目、2年目は生産が伸びない。原因も対策も分からないが、あきらめない。懸命に改良を重ねた結果、今では生産が軌道に乗り、35アールの農地で年間10トンのイチゴを出荷している。 主な品種は「紅ほっぺ」。「鶏卵ほどの大きさになり、とても甘い。丸いパックに詰めて販売すると、宝石感覚でよく売れます」と話す福永さんに、笑みが浮かぶ。完熟させると、さらに糖度が増す。消費地に近い都市農業に適した商品だ。府の担当者は「大阪市内の百貨店では、顧客が手土産にできるような1箱1500円程度の高級イチゴの安定した仕入れを待ち望んでいる」と分析し、イチゴ生産の将来性に自信を示す。 プロジェクトでは5年間で20人程度の新規就農者の迎え入れを目指す。福永さんが後輩の就農希望者たちにエールを送る。 「農業は魅力的で、やめようと思ったことはない。良い商品を作ると、お客さんが喜んでくれる。やりがい十分だ。千早赤阪村をイチゴの名産地にする仲間を求めています。『いちごアカデミー』でしっかり学んでください」 1戸あたりの耕地面積は狭くても、単位面積あたりの農業産出額は全国上位にある大阪の農業。食べることが好きな大阪人や、食材との出合いを求める大阪の料理人たちに愛される農産物を工夫したり、心身をリフレッシュさせる農の体験を提供しようとする意欲があるならば、農業はかなりおもしろい職業になりそうだ。
府では府内での就農支援事業の一環として、農業経営者と就農希望者が直接対話できる「憧れの『農家で働く』マッチング面談会」を26日、大阪市内で開催する。参加する就農希望者を21日まで募集中だ。活性化プロジェクトやマッチング面談会に関する詳しい情報は大阪府や千早赤阪村の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)