プレミアリーグのニューカッスルが来日 サッカーに熱狂するイングランド北部クラブの長い歴史と背景
【サッカーが都市のアイデンティティの中心】 ただし、20世紀後半に入ると石炭産業は斜陽化し、造船業も過去のものとなった。ニューカッスルもサンダーランドも産業空洞化で苦労した時期もあったが、現在は製造業や流通業、情報産業などを誘致して見事に立ち直った。サンダーランドには、日産自動車の工場があるので有名だ。 そして、どちらの町でもサッカーは都市のアイデンティティの中心にある。 ニューカッスルでは都心の一等地にニューカッスルFCの本拠地セント・ジェームスパークがあり、タイン川を跨ぐタイン・ブリッジとともに都市を代表するランドマークとなっている。 サンダーランドAFCは、1997年に新スタジアム「スタジアム・オブ・ライツ」に引っ越したが、ここはもともと石炭の集積場だったので、まさに町とクラブの歴史を象徴するようなロケーションとなった。クラブのエンブレムの中央上部に見られる黒い鉄の車輪も、炭鉱の立坑櫓の巻き揚げ装置。炭鉱を象徴するエンブレムなのだ。 イングランド最北部のニューカッスルからはスコットランド国境も近い。その国境に向かってローカルバスで1時間ほど行くと、アニックという人口7000人ほどの小さな村に出る。ここでは、今でも中世以来の伝統的なモッブ・フットボール(暴徒のフットボール)が行なわれている。 かつては城門から投げ下ろされたボールを、村人全員が街中を使って奪い合っていたのだが、今ではノーサンバーランド公爵所有の牧草地の中でプレーしているのだという。 ノーサンバーランド地方では、産業革命のずっと前からフットボールが根づいていたのである。ただし、初期の頃はラグビーのほうが盛んだったようだ。サンダーランドAFCの「A」はアソシエーション。つまり、「ラグビーではなくアソシエーション・フットボールのクラブだ」ということをわざわざ明示しているわけである。 いずれにせよ、親善試合を観戦する時にも古い伝統を誇るニューカッスルの歴史に思いを馳せてみると、よりいっそう試合を楽しめるのではないだろうか。
後藤健生●文 text by Goto Takeo