【Neoセルフラブの始め方】「弱くあってもいい」と思えるために
自尊心が簡単に傷つけられる社会で、セルフラブは「最終手段」
――著書ではZ世代的な価値観のセルフラブを考える際に、「社会と向き合わずして、自分自身と向き合うことはできない」と書かれていました。新しいセルフラブと社会構造とは、どのように関係しているのでしょうか。 竹田さん:まず、セルフラブが生まれた背景を知るには、ミレニアル世代が起こした“自己肯定感ブーム”を知る必要があります。ここからは特定の時代背景を経験してきた集団としての「世代」の話なのですが。アメリカのミレニアル世代は日本のゆとり世代に似て、先行世代から「考え方が甘い」とか「働く気がない怠け者」というネガティブイメージを持たれてきました。一方で、先行世代が生きてきた時代に比べて物価や家賃が高騰しつづけ、医療保障や雇用形態も不安定になっていたなか、ミレニアル世代の多くは、自分の人生を豊かにするために精いっぱいスキルアップして、自己肯定感を高めようとしてきました。そういうミレニアル世代の苦しみを、Z世代の人たちは間近に見てきました。 さらに、気候変動や経済不安などの危機的状況が盛んに叫ばれる時代に育ち、コロナ禍で心と体の健康は自分で守るしかないと痛感したZ世代の人たちは、「誰も自分を守ってくれないのなら、せめて自分が自分を大切にしなくてはならない」という方向にシフトしてきたといえます。だから、Z世代的価値観のセルフラブは社会構造と大きく結びついているし、そのなかで自分たちが生き抜く「最終手段」としてとらえられていると感じます。 ――「最終手段」というと、かなり切実なものという印象を受けます。 竹田さん:そうですね。この切実さは、気候変動やパンデミックという社会背景に加えて、「生産性」の問題とのつながりもあると思っていて。今の社会では、環境に適応した生産性の高い人間であることを求められますよね。競争社会のなかで成功しないと、価値のない人間だと思わされてしまうようにできている。見た目に関しても、二重手術や脱毛、ダイエットの広告をよく見かけますが、「自分は欠陥がある人間で、それを補うために何かをしなくてはならない」と思わせられることがすごく多い。だからそれに対抗するセルフラブがないと、自尊心って本当に傷つけられてしまうんです。 ――なるほど。著書の中で、セルフラブが「社会のために戦いつづけるためにも必要である」とも書かれていた部分にもつながる気がします。 竹田さん:そもそも苦しい思いをしているのは自分のせいではなく、社会に問題がある。自分を大事にすることで、コミュニティの傷や痛み、悲しみに目を向けることができて、その結果、社会の問題に向き合える。Z世代的な価値観の新しいセルフラブは、自分勝手な行為ではなく、不平等な社会にアクションできる強さを持つために必要なものなのです。