超厳しいが「エモい」文章読本...3行で撃たれても、書きたくなるひとが続出している理由
<思考を他者の頭に委ねない>
<常套句の弊害:他人の頭に自分の思考を委ねない> 『三行で撃つ』が取り上げる文章の禁じ手に「常套句」がある。常套句を使うことが、考える行為の妨げになるからだ。常套句とは、クリシェ、決まり文句、「抜けるような青い空」「燃えるような紅葉」といった表現だ。 常套句を使うとなぜいけないのか。 あたりまえですが、文章が常套的になるからです。ありきたりな表現になるからです。しかし、それよりもよほど罪深いのは、常套句はものの見方を常套的にさせる。世界の切り取り方を、他人の頭に頼るようにすることなんです。【第4発 常套句・「としたもんだ表現」(53ページ)】 常套的な表現「抜けるように青い空」と書いた時点で、書き手はまともに空を観察していない、と著者は指摘する。 他者の目で空を見て「こういうのを抜けるような青空と表現するんだろうな」と感じている。他者の頭に自分を預けている。自分で考えることを放棄してしまっている。そうではなく、〈空を見て、なにかを感じたという、いつもとは違うその気分、特別な心持ちを、自分の五感で観察し、自分だけの言葉で描き出そうとする〉よう著者は説く。そうすることが、〈文章を書くことの最初であり、最後です〉と。 「言葉にできない美しさ」と、よく人はいいますが、それは言葉にできないのではない。考えていない。もっといえば、当の美しさを、ほんとうには感じてさえいないからなんです。【第4発 常套句・「としたもんだ表現」(56ページ)】 <ビジネス実用書にとどまらない読み物の魅力> このように、著者は25の文章技術(ノウハウ)を紹介していくのだが、その技術を良し、あるいは悪しとする理由、思考の道筋に発見がある。また、文章読本である以上、文章がつまらなければ説得力に欠けるが、『三行で撃つ』は「書く」をめぐるエッセイとして読むことができるし、ノウハウを伝えるだけのビジネス実用書にはとどまらない、思想書の趣がある。ロジカル(論理)とリリカル(抒情)の両立、これが他の文章術の実用書にはない本書の2つめの魅力となっている。 実際、読者のほうも、25の技術を理解しながら読み進むほどに、言葉、文章、書くこと、表現すること、ひいては生きるということの意味を考え抜かざるを得なくなっていく。知らぬ間に、感じる力、思考する力が呼び覚まされていく。