「大谷効果」にわく米ロサンゼルス ワールドシリーズの熱狂
リーガン・モリス(BBCニュース、ロサンゼルス) 熱狂的な野球ファンたちが、アメリカ2大都市のチームによる米ワールドシリーズをめぐって盛り上がる中、ロサンゼルスのある場所に、一人の選手を目当てに世界中から多くの人々が集まっていた。 ロサンゼルスのリトル・トーキョー。ここでは、この現象を「大谷効果」と呼んでいる。 30日にワールドシリーズを制覇したロサンゼルス・ドジャースのスター、大谷翔平選手は、この歴史ある地区に大きな影響を与えている。高さ45メートルの壁にその姿が描かれ、ファンのユニフォームには彼の名前が大きくあしらわれている。 野球は「アメリカの娯楽」として知られるが、その最大のスターは日本出身だ。10年総額7億ドル(約1071億円)という記録破りの契約を結び、今シーズンからドジャースでプレーしている。彼を取り巻く熱狂は高まる一方で、多文化都市ロサンゼルスに新たなファンと新たな伝統をもたらしている。 ビジネスも活況を呈している。観光客が世界中から訪れており、大谷選手の母国からやって来る人も多い。 「翔平が打席に立って、ホームランを打てば、私たちが日本酒を注ぎ始めるとみんな知っている」と、ドジャースの試合を十数台のテレビで放映している「ファー・バー」のオーナー、ドン・タハラさんは言う。ホームランが出るたび、ファンに日本酒を無料提供しており、その人数は数百人に上ることも多い。 これはかなりの量の日本酒になる。大谷選手は今年のレギュラーシーズンで54本塁打を記録した。ただ、ニューヨーク・ヤンキースとの対決となったワールドシリーズでは、ホームランはなかった。 「(大谷選手のホームランは)ドジャースにとっては良いことだが、私の懐にはあまり良くないかもしれない。でも意味のあることだし、私の心も温まる」 ワールドシリーズ中、ファー・バーは満員だった。 タハラさんは、ドジャースのロゴをあしらった餅を客に配り、最近亡くなったドジャースの伝説的選手フェルナンド・バルセズエラ氏をたたえて無料のマルガリータショットを配った。メキシコ生まれの左腕投手だったバルセズエラ氏も、リトル・トーキョーの対岸にあるボイルハイツで壁画に描かれている最中だ。 壁画を描いているロバート・ヴァルガスさんは、しばし手を休め、ペンキだらけの姿でファー・バーで試合を観ていた。バルガスさんがこの店で、自分で飲み物を買うことは想像しがたい。ミヤコホテルの壁に大谷選手を描いたヴァルガスさんは、ここリトル・トーキョーでは大谷選手と同じくらい愛されている存在だ。 「私は生涯ドジャースのファンだ」と話すヴァルガスさんは、大谷選手の絵を「表現の精神に基づいて」描いたと語る。 そしてこの壁画は、団体バスでやって来る日本人観光客の人気撮影スポットとなっている。 キウチ・タカタニさん(漢字不詳)は、ロサンゼルスの中心部にあるドジャー・スタジアムで行われたシリーズ第2戦を観戦するために日本から駆けつけ、第3戦は友人たちとファー・バーで観戦した。 頭から足先までドジャースのものを身に着け、大谷選手のユニフォームをまとったキウチさんは、ロサンゼルスや世界中のファンと会った。 「私たちは新しいドジャースファンで、東京から来た。私たちにとってはワールドシリーズよりも、ヤンキース対ドジャースという部分が大事だ」 キウチさんたちは、シリーズ第2戦にドジャースのもう一人の日本人スター選手が出場したことにも興奮していた。この試合では山本由伸投手が6回を投げ、ヤンキースに1安打しか許さなかった。 キウチさんがロサンゼルスを訪れたのは、50年前の子供のころ以来だったが、ドジャースの試合を観るために必ず戻ってくると話した。 「私たちはこれを観るためにここに来たんだ」 第3戦でドジャースのフレディー・フリーマン選手がホームランを放つと、キウチさんはファー・バーの客たちと共に歓声を上げた。 ロサンゼルス市の観光局も歓喜している。日本からロサンゼルスを訪れた観光客は昨年、23万人に達し、前年から91.7%増加した。 市観光局のビル・カーズ上級副局長(ブランドマーケティング担当)によると、今年は年末までに32万人の日本人観光客を迎える見込みだという。新型コロナウイルスのパンデミック前の水準には依然として及ばないが、観光関係者らはこの増加を歓迎している。 「大谷効果は本物だ」とカーズ氏は言う。「我々の経済全体に影響を与えている」。 その結果、ホテルの宿泊率が上がり、ユニバーサル・スタジオのような地元のテーマパークやドジャー・スタジアムのチケットの売り上げも伸びた。日本語ツアーの数も増えたという。 さらには、熱烈なヤンキースファンの中にも、大谷選手の人気に便乗する人がいる。 ドジャースブルーがファー・バーの店内を染める中、ヴィンス・ゴンザレスさんは、日本代表チームの黒と赤の「大谷」シャツを着ていた。 「シーッ、実はヤンキースファンなんだ」と、ゴンザレスさんは日本からの観光客と交流しながらささやいた。「でもそれ以上に、僕は大谷ファンだ。日本の野球が大好きなんだ」 第3戦がドジャースの勝利に終わると、ファー・バーは歓声に包まれ、サウンドシステムから「I love LA」が鳴り響いた。 壁画家のヴァルガスさんは、こっそり立ち去ることはできなかった。日本から来た女性が、壁画の前で一緒に写真を撮ってほしいと、バーから飛び出してきたのだ。ヴァルガスさんが快く引き受けると、すぐに何十人もが一緒に写真に収まろうと集まってきた。みんな、「レッツゴー、ドジャース!」と声を合わせていた。 (英語記事 Ohtani-mania sweeps LA as Dodgers battle for World Series title)
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