コラム:亜州・中国(23) 経済発展続けるフィリピンの最新事情
民主主義の根幹「報道の自由」の今
マルコス現大統領の父による独裁政権時代、1972年に布告された戒厳令で民主化勢力は弾圧され、投獄、拷問、殺害などの人権侵害が起きたといわれる。言論の自由も抑圧された。一部の新聞が発行停止になるなどジャーナリストにとっても暗黒の時代だった。 マニラ駐在外国人特派員とフィリピン人記者たちが「報道の自由」を守るため、1974年に結成したのが「フィリピン外国人特派員協会(The Foreign Correspondents Association of the Philippines、略称FOCAP)」である。今年4月15日、マニラホテルでFOCAP創設50周年記念フォーラムが開かれ、マルコス大統領が講演、記者会見にも応じた。 強権的なドゥテルテ前政権は旧マルコス時代と同様、メディアを締め付けた。大手放送局ABS-CBNは閉鎖された。独立系ネットメディア「ラップラー」を立ち上げたマリア・レッサ氏(2021年にノーベル平和賞を受賞)もさまざまな圧力や嫌がらせを受けた。 レッサ氏は著書『偽情報と独裁者――SNS時代の危機に立ち向かう』(日本語版は竹田円訳、河出書房新社)で、「ドゥテルテのメディアに対する脅迫は、フィリピンの言論の自由に背筋の寒くなる効果をもたらしただけではない。フィリピンをシベリアに変えた」とまで書いた。 22年6月末に発足したマルコス政権下で、メディア環境は改善したのだろうか。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が今年5月に発表した24年版「世界各国の報道自由度ランキング」によると、対象180カ国・地域のうちフィリピンは134位だった。22年が147位、23年は132位と持ち直したものの、2つ順位を下げた形だ。ちなみに日本は前年から2つ順位を落として24年は70位、G7で最下位だった。 筆者は今回のマニラ訪問で、1990-91年にFOCAP会長を務めたロベルト・コロマ氏(愛称ボビー)と32年ぶりに再会した。彼は59年生まれ。フィリピン国立大学(UP)で学生新聞の編集長をしていたとき、旧マルコス政権から政治犯とされた経験を持つ。その後、フランスのAFP通信社に40年間勤務した。欧米も含めて20カ国以上で取材活動を続け、シンガポール・マレーシア支局長などを歴任した。2006年に仏政府から国家功労勲章シュバリエを受賞した著名なジャーナリストだ。 コロマ氏はフィリピンが報道自由度で134位にランク付けされたことに「同意できない。質の問題はあっても、報道は完全に自由だ」と反論した。「今のマルコス大統領は彼の父親やドゥテルテとは違って、メディアには手を出していない」との見解も述べたが、1986-92年のアキノ政権時代の方が現状より報道の自由度は高かったとの認識を示した。