「ジョブズの教え」と初心者戦略、フェンダーCEOが明かす秘策
「ギターを楽しむ」というコト消費に目を向けたことが成果に
──楽器メーカーは、一流アーティストと契約したり、彼らの意見や要望を積極的に取り入れたりすることで高品質のプロダクトを提供し、ブランディングにつなげている場合が多い。初心者に焦点を合わせ、「ギターを楽しむ」というコト消費に目を向けたことが成果につながったと。 ムーニー:フェンダーが4000人ものアーティストとパートナーシップを組んでいるのは興味深いことだ。会社の歴史をさかのぼってみれば、創業者のレオ・フェンダーは、ギタープレイヤーではなかったものの、非常に鋭いリスナーだった。彼は、現役ミュージシャンからのフィードバックに耳を傾け、機能的なフォームに基づいて「ストラトキャスター」を設計した。私たちは、常に現役ミュージシャンからのフィードバックを大切にしている。だからこそ長い間支持されてきたのだ。 一方で、私が入社した当時、ギター業界全体が熱心なプレイヤーにばかり注目していて、お互いにシェアを奪い合っていると感じた。私は、フェンダーの使命は業界の成長を生み出すことだと思った。そうすれば、結果的に市場シェアを拡大し、急速に成長することができると。だから意図的に初心者向けのプロダクトを開発することにしたのだ。初心者の多くはアマゾンで最初のギターを購入するが、私たちはアマゾンのエレキギター部門で売り上げ1位の商品をもっている。そして、こうしたプレイヤーの90%は、次のギターを購入する際に従来の楽器店などのチャネルを通じて、より高価でスペックの高い製品を選ぶようになる。 ひとつ哲学的な話をしよう。私が現職について1年ほどたったころ、レオ・フェンダーの妻に会う機会があった。彼女は「アーティストは天使である。私たちの仕事は、彼らが羽ばたくための翼を与えることだ」というレオの言葉を教えてくれた。私は、それがこの仕事の本質だと思い、会社のミッション・ステートメントに採用した。私たちの仕事は、あらゆるステージのアーティストに翼を与えることなのだ。 ──こうした戦略は収益に変化をもたらしたか。 ムーニー:まず、コロナ禍以前の売り上げは、毎年一桁台後半で伸ばしていた。外部要因として、音楽ストリーミング市場が拡大し、ギターを中心とした旧譜を聴く人が増えたほか、ギターが中心的役割を果たすライブ・コンサートに対する需要も高まっていることが挙げられる。 内部要因としては、製品のライフサイクルを7年から4年に短縮した。製品アップデートのたびに、多額のマーケティング費用を費やし、ソーシャルメディアを通じて消費者に伝えている。15年当時は売り上げ4億ドルの4%を店舗マーケティングに費やしていた。今は、売り上げの10%をマーケティングに費やし、そのほとんどがソーシャルメディアを通じた消費者向けのものだ。そこから販売店のネットワークやウェブサイト、店舗に誘導している。 コロナ禍になると、ギター市場は巣ごもり需要で爆発的に拡大し、成長を後押しした。私たちは、新たに3000万人のギタープレイヤーが生まれたと見積もっている。仮に、そのうちの1割が生涯にわたってこの楽器を使い続け、1人あたり1万ドルを消費すると、300億ドルの市場が生まれることになる。 現在はコロナ禍以前の水準に戻っているが、私たちは15年から2024年まで、一時的な上下を除くと一桁台の持続的な成長を続けている。売り上げは10億ドルに近づいており、30年までに到達するだろう。特に日本、東南アジア、中国、ラテンアメリカといったグローバル市場が成長を生み出し続けると見ている。 ちなみに、サブスクリプションサービスとして提供している「Fender Play」は独立した収益事業となっており、会社としても業界全体の成長の原動力としても、目に見える結果を生み出している。