未来を紡ぐ原点を探る:情報化社会の開拓者、テッド・ネルソンが語るハイパーテキストとインターネットの可能性
現代のデジタル社会を形作る原点はどこにあるのでしょうか。 私たちが日々使うウエブサイト、情報共有、そしてAI技術の背後には、半世紀以上前に描かれた一人の科学者のビジョンが存在します。 【写真】テッド・ネルソン氏の基調講演。写真右下にインターネットの祖父デイビッド・ファーバー博士が その科学者こそが、ハイパーテキストの父と呼ばれるテッド・ネルソン(87)氏です。 1960年代、ネルソン氏が着手した「Xanadu」プロジェクトは、双方向リンクや知的財産管理といった、現在のインターネットの基盤となる革新的なアイデアを提示しました。 その後も、彼のアイデアはティム・バーナーズ=リーらによるワールド・ワイド・ウエブ(WWW)の発明や、デジタル民主主義の拡がりに大きな影響を与えてきました。 そのネルソン氏が11月28日、慶應義塾大学サイバー文明研究センターが主催する特別シンポジウムで講演しました。 今回は、その講演を通じて彼の思想がどのように受け継がれ、また、現代のインターネット社会において新たな意義を持つのかを探ります。 デジタル時代の「原点」に立ち返りながら、未来への可能性を考えるひとときとになれば幸いです。 この講演はすべて通訳なしで英語で行われました。以下は、筆者の翻訳です。
■ テッド・ネルソンの来日講演 1967年、私は自費で米ブラウン大学に通い、ひどい扱いを受けながらも、クリックするだけでリンクできる仕組みを作りました。 当時は、ローカルアドレス空間内でのみリンクが可能で、インターネットのような統一されたアドレス空間がなかったのです。 そのため、ブラウン大学のシステム内のドキュメントにしかアクセスできませんでした。 一方、私はコンピューターを人々が利用できるようにする方法を模索していたのです。 そして、有名な詩から「ザナドゥ」という名前を選びました。 そこで私は、ザナドゥを文学的記憶の魔法の場所、何も忘れられない場所として創造したいと思ったのです。 詩はこうです。 ザナドゥに壮麗なる歓楽の宮殿を建てよと命じたるは、かのクビライ・ハーンなりき。 聖なる川アルフ、人知れぬ洞窟を貫き、陽の届かぬ海へと流れ下る。 かの地は、周囲を城壁と塔で囲まれし、五里程にも及ぶ肥沃な土地なり。 そこには、香りを放つ多くの木々が咲き乱れる、曲がりくねった小川の流れる庭園あり。 丘陵には古の森が茂り、緑の陽光降り注ぐ場所あり。 されどああ、かの魅惑に満ちた奥深い場所よ。緑の丘を傾斜して流れ下る聖なる川。 薄明かりの月の下、荒涼とした場所、孤独と魅惑に満ちた場所。 女が魔性の恋人を嘆き悲しむ声に満ちている。 岩が砕け散る中、聖なる川は絶え間なく噴き上がる。 かつて幻の中に見た乙女、それはアビシニアの乙女なりき。 彼女はダルシマーを奏で、アバラ山の歌を歌っていた。 ああ、もし我が内に、かの乙女の調べと歌を蘇らせることができたら! かの調べと歌は、我が内に深い喜びをもたらすだろう。 轟き渡る音楽と共に、私はかの陽光降り注ぐドームを空中に建てよう。 氷の洞窟も建てよう。そして、訪れる者は皆、そこに私を見るだろう。 皆が叫ぶだろう。 「気をつけろ! 気をつけろ! 彼のまばゆいばかりの瞳! 彼の漂う髪! 彼の周りを三度回れ! 彼は蜜を食べ、楽園の乳を飲んだのだ!」と。 これは英語で非常に有名な詩です。 そこで私は、ザナドゥを文学的記憶の魔法の場所、何も忘れられない場所にしたいと思いました。