【宮城県・大衡村】「消滅」の危機から「自立持続」へ躍進した謎の村の正体
今年に入り、小川村長は世界最大の半導体メーカーTSMCが進出し、2月に新工場が開所した熊本県菊陽町を視察した。この町で、村長は想像を超える半導体バブルの熱狂を見た。 「無人駅には通勤ラッシュが発生、タクシー運転手の売り上げは1日100万円以上、TSMCの関連工場では清掃員や食堂スタッフの時給が2000~3000円という話も聞きました」 そう話す小川村長が危機感を募らせたのが交通渋滞だ。今年4月、菊陽町が道路混雑状況を調査すると、1年前と比べて渋滞の車列の長さが211mから1057m(401%増)に延びた交差点も見受けられ、町の道路状況は著しく悪化していた。 「菊陽町には鉄道が通っていますが、鉄道がない大衡村では、通勤や買い物時の移動のほぼ100%が車だと考えると、混雑はさらに深刻になる恐れもある。国・県にはさらなる道路整備を強く訴えていくつもりです」(小川村長) 先述した雇用の面でも村民は懐疑的だ。 「この村には大規模な工業団地があっても村民の雇用につながらないという課題が連綿とある。工業団地に立地する約60社の従業員数は総計約4400人ですが、そのうち村民は176人と4%止まり。村民を正規雇用する企業に奨励金を出す制度を設けていますが、これを活用して雇用された村民はわずか10人です」(役場関係者) なぜか? 「工業団地にはトヨタをはじめ大きな会社が多く、採用試験には仙台市など周辺の大都市から人が集まる。村民だからと優遇はされないし、奨励金を出したところで見向きもされてないのが現実で、結局、学歴が高い都会の子が重宝されるんです。 ちなみに、PSMCの工場も、新規雇用1200人のうち200~250人は台湾本社から来る外国籍社員、残り1000人は理工系学部の出身者が中心で、全国規模での採用になるという話だから、どこまで村の雇用につなげられるか」 ■村に根強く残る負の側面 大衡村では現在、PSMCの3年後の操業開始に向けたインフラ整備が進む。だが急速な"都市化"に村民の間では戸惑いの声も聞こえる。 「おりゃあ村のままがええ。町になんぞならなくても」 ある村民はそうつぶやいた。役場の職員もこんな本音を吐露する。 「6000人弱の人口規模だからこそ村民の顔がよく見えて、適切にニーズをとらえた施策を打ち出せる。人口や予算規模が大きい自治体だから幸せというものでもないんじゃないかと、個人的にはそう思うんです」