【宮城県・大衡村】「消滅」の危機から「自立持続」へ躍進した謎の村の正体
大衡村に長年暮らす60代の男性はこう話す。 「都市化や工業化やハイテク化が進んでも、家柄がモノをいうような昔の風習がいまだに残っているのが大衡よ。今の女性村長(小川村長)以前のこの村の村長といえば、父も村長、祖父も村長と、限られた家系の中で代々受け継がれていくのが普通だった。それも、子世代、孫世代と後年になるほど質が落ちる、というのが常でな。 例えば、ずいぶん前に人格の優れた米農家出身の村長がおった。ところがその養子が実家の倉庫から米を盗み、無断で売って小遣い稼ぎをしておった。その後、犯人が自分の息子と知った村長は、責任を感じて自殺してもうての。 で、悪事を働いたその養子はしばらく後に村長となり、その息子も後年に村長になったが、役場職員へのセクハラがバレて退任に追い込まれた。これが今から10年前のことだよ。 この事件が散々報道された結果、トヨタが『村から出る』という噂が村中に流れたんだ。結局、トヨタがこの村から離れることにはならなかったけど、村民はみな凍りついたね。 ただ、この村では家柄が影響力を持つ昔の風習から抜け出せていない権力者がいまだに多いんだ。今の女性村長は、世襲の流れを断ち切ってくれた人だから期待しているけど、まさにこれから、激動の時代に入る大衡村で、どこまで踏ん張れるか」 「消滅可能性」から「自立持続可能性」へと飛躍した大衡村。だが、現地取材で見えたのは、「若年女性人口」の指標だけで自治体の将来を見通すことなどできない、という現実だった。 取材・文・撮影/興山英雄