【宮城県・大衡村】「消滅」の危機から「自立持続」へ躍進した謎の村の正体
そんな大衡村だがこの10年でどう変わったのか? 小川ひろみ村長はこう話す。「私がまだ村議だった14年当時、『消滅可能性(自治体)』といわれ、強い危機感を持ちました。その後の10年間で村が力を入れたのは、子育て支援です」 同村は中学生までの医療費無償化を02年に開始したが、それは「国内で3番ぐらいの早さ」(財政課)だったという。この10年では、5万円分のクーポン券を妊婦に配布する事業や、出産時に5万円、小中学校・高校の進学時に各3万円を支給する祝い金制度を開始。小中学校の給食の無償化も実現した。 これらと並行して、住宅団地の造成にも取りかかったのもこの10年のこと。だが、村が宅地開発を民間事業者に投げても、「手を挙げる企業さまはいませんでした」と小川村長は打ち明ける。 「『消滅の可能性がある』と位置づけられたこの村で、家が売れるとは誰も思わなかったのでしょう」 やむなく、村独自に住宅団地を造成することに。住宅の取得には補助金を贅沢につけ、40歳未満の新規転入者には最大で150万円を助成した。村の工業団地に立地する自動車工場で生産された車を購入した村民にも補助金を支給した。 こうした手厚い金銭支援もあり、造成した計200戸の新築一戸建ては販売開始後、ひと月で完売。30代、40代の子育て世帯が多数流入し、19年5月、村の人口は17年ぶりに6000人台まで回復した。 役場裏の住宅団地に行くと、豪華な一戸建て住宅が立ち並んでいた。出産を機に村外から転居してきたという30代の主婦がこう話す。 「土地が安いので豪華に見える家も3000万~4000万円台。村には商店しかないけど、隣町のスーパーまで車で10分程度だから不便さは感じません」 ■県内ナンバーワンの金持ちエリア 子育て支援や大規模な宅地開発には巨額の財政支出が伴う。大衡村でそれが可能だったのはなぜか。 その理由のひとつは、陸上自衛隊の大規模訓練施設、「王城寺原演習場」が村内にあること。村の公道では戦車や装甲車が走り、演習場で砲撃訓練が実施されれば、数㎞離れた家でも轟音や震動が伝わり、「窓ガラスがビリビリと震える」(村民)という。 だが、住民が迷惑を被る分、村には潤沢な交付金が国(防衛省)から支給される。道路、橋、学校校舎などの新設や改修、子供の医療費助成に至るまで「事業費の9割程度が防衛予算で交付される」(前出・財政課)のだ。