【宮城県・大衡村】「消滅」の危機から「自立持続」へ躍進した謎の村の正体
今年、完成した小中学校の給食センターの総事業費約8億円も、大部分が交付金で賄われた。この村では、インフラ整備にほとんど金がかからないといってもいい。 村の東側エリアには工業団地がある。東京ドーム約130個分という広大な敷地に、自動車関連を中心に60社程度が入り、トヨタ自動車東日本の本社工場もある。同社が村に進出した11年を境に工業団地の出荷額は爆増。 01年と20年の比較で、出荷額は5倍以上、村の法人税収も71%増になった。ちなみに、19年度の村の住民1人当たりの所得額(400万円超)は仙台市(300万円程度)を上回り、県内トップ。大衡村は、県内唯一の村にして、県内一の"金持ち村"だった。 ただ、演習場や工業団地は昭和期から村にあった。トヨタの進出も「消滅可能性自治体」に分類される3年前のこと。なぜ、裕福な村が、消滅の恐れがある村とされたのだろう? 「金も働き口もある。でも、家がなかった」(村民) 大衡村は、村域の大半が「市街化調整区域」にある。これは、乱開発を避け、緑地や農地を維持するために宮城県が都市計画の中で策定したもの。県の許可がなければ宅地の開発を一切進められないというのが、この村の現実だった。 市街化調整区域の縛りを外すことは歴代の村長の望みで、前述の計200戸の宅地造成も県との長年の協議の末に勝ち取ったものだった。その結果、若年女性人口を回復させ、「消滅可能性自治体」から脱却することができた。 ■半導体工場の誘致も決定したけど...... だが、村の未来については「この村はいったいどうなる?」「村が村でなくなりそうで怖い」と浮かない表情の村民も多い。その不安のタネは、近く村に進出してくる台湾の半導体メーカー・力晶積成半導体(PSMC)の存在だ。 半導体で世界6位の売り上げを誇る同社は昨年10月、村の工業団地に工場を新設すると発表。来年中に着工され、工場への総投資額は約9000億円以上、新規雇用者数は1200人を見込む。 「大衡にとっては夢のような話。村の予算180年分をつぎ込むのだから、村をデカくするビッグチャンスだよ」 そう鼻息を荒くする村議もいる。