「田舎暮らし」の断片(1)── 移住民が新たに価値を見出した「薪ストーブ」
今、政府が唱える「地方創生」と共に脚光を浴びているのが、いわゆる「田舎暮らし」というライフスタイルだ。内閣府が昨年夏に発表した調査結果によれば、農村や漁村に住みたいと考える都会人は31.6%で、前回調査時の9年前から11ポイント増えている。若者の方がその傾向が強く、20代では38.7%がそうした「田舎暮らし」に魅力を感じているという。 【図表】田舎暮らし 移住先人気ナンバー1は何県? だが、実際に大勢の若い世代が「田舎暮らし」を実現しているかと言えば、今、40代でそれを経験している僕の実感からすればNOである。いわゆる「団塊の世代」の引退と共に、リタイア後の移住者が急増している実感はあるものの、統計上も地方の高齢化がスピードダウンする気配はない。 現役世代の場合、「夢はあっても金がない」「田舎に行っても生活の手段がない」といったところが現実だと思う。だとすれば、いまさら「夢のような田舎暮らし」を煽っても仕方がない。ここでは実体験を踏まえ、身の回りにある「田舎暮らし」のリアルな断片をいくつか紹介したい。(内村コースケ/フォトジャーナリスト)
「薪」を手に入れる事から始まる
僕は3年前の夏から、八ヶ岳を望む長野県の山中に生活の拠点を移している。ざっくり言えば最近流行りの「田舎暮らし」だが、仕事の中心や人間関係の大半は、まだ地元の東京に残したままだ。住んでいる場所も都会人が集まる別荘地で、「自然に寄り添う」という言葉が出てくるような、志高い「田舎暮らし」のイメージとは異なる。 そんなヘタれた「田舎暮らし」の中で、まあ、「らしく」頑張っていると言えるのものが一つだけある。「薪づくり」である。 僕の家は標高1350メートルの高地にあり、冬はマイナス10~15度になる。当然エアコンは役にたたない。地元民が大半を占める市街地では、石油ストーブが活躍しているが、別荘地を中心に分布するいわゆる「外来種」「移住民」となると、あえて薪ストーブを使っている人が多い。最近の薪ストーブは石油ストーブよりも暖房効率が高く、単純に寒冷地に最適だという理由が一つ。また、「炎を眺める」ということを通じて、なんとなく田舎暮らしを満喫しているような気分になるという都会人感覚も普及におおいに貢献していると思う。