LINEヤフーの「原則週1出社」から考える新しい働き方
LINEヤフー株式会社が同社に所属する正社員・専門正社員・契約社員・嘱託社員・アルバイトに対して、2025年4月以降の働き方として、カンパニー部門に所属する社員は原則週1回、カンパニー部門以外(開発部門、コーポレート部門等)に所属する社員は原則月1回の出社を求めることにしたと発表した。 同社は2014年から働く場所や環境を選択できる人事制度「どこでもオフィス」制度を導入し、2020年にはリモートワークの回数制限を撤廃するなど、時間と場所に捉われない新しい働き方を進めてきたが、今回の発表は、それらをくつがえす方向性を持つことになる。 LINEヤフーはLINEとヤフーの合併による企業で、合併から2年目の節目を迎えている。今回の決定について、同社としてはコミュニケーションの質を強化することが必要で、リモートワークの良さを活かすとともに、対面でのコミュニケーションの良さを今まで以上に取り入れるための施策だとしている。まずは、ハイブリッドからということになる。
■コロナ禍には脱「東京集中」が続いた時期も コロナ禍下、その感染拡大防止のために脱「東京集中」をめざす企業のチャレンジについては、以前にもこのコラムで取り上げたことがある(関連記事)。 2020年当時、GMOインターネットグループが捺印手続きのために出社しなければならない事態が多いことから、グループ内での印鑑手続きの完全廃止を決定している。また、LINEと合併する前のヤフーは、民間取引先との契約手続きをすべて電子サイン化することを公表している。 ハンコが足かせとなっている状況を名うてのIT関連企業が先頭を切って改善しようとしていた。 それが2020年頃の話で、あれから4年が経過した。新型コロナウィルス感染症も、感染症法上の位置付けが「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から、昨2023年5月8日から「5類感染症」になった。 ■出社するための新オフィスがコロナで断念 そのコロナがわれわれを襲う前の2016年、ヤフーは新社屋に移転、東京・千代田区の赤坂プリンスホテル跡の再開発地の一部「東京紀尾井ガーデンテラス紀尾井町」を構成するタワー棟のオフィスエリア24フロアのうち20フロアに入居し、そこに本社機能を集約した。 新オフィスお披露目の記者会見をのぞいたときのことを覚えている。手元のメモを見ると、当時のYahoo! Japan最高執行責任者、川邊健太郎氏(現会長)は会社という場所で働くことについて、「人と情報が集まり、イノベーションを生み出せるから会社に行く。その会社に行く理由を今こそ変えたいからこその新オフィスだ」と述べている。 テレワークの時代、ITはさまざまな問題を解決することができるはずで、そんな時代にあえて会社に行くためには理由が必要だ。だったらその理由を作ればいい。それが働き方のアップデートだというのが当時の趣旨だった。 今思えば、そのアップデートがコロナによって阻止されたわけだ。当時のYahoo! Japanは、オフィス移転を機に、新幹線通勤を導入、1カ月に15万円までの交通費を支給することを決めている。通勤で疲れてしまっては仕事に支障が出てしまうし、地方在住の経済的、精神的余裕を期待してのことであるとしていた。つまり、在宅勤務を奨励するのではなく、楽に通勤して、いい仕事をしようという発想がそこにあった。 ■リモートに慣れた人にはハシゴを外された感も 新本社移転から約10年。コロナ禍が収束し、今、ようやく新社屋移転当時の志を実践できる環境が整ったということか。だが、その10年で、出社しないことに慣れてしまった社員は、いきなりハシゴを外されたのにも近い思いだろう。 部外者としてはこれから同社に起こることを、興味深く、いや、注意深く見つめるしかない。正解はないが、豊かな暮らしに向かう何かのヒントが得られるはずだ。 ■ 著者 : 山田祥平 やまだしょうへい パソコン黎明期からフリーランスライターとしてスマートライフ関連の記事を各紙誌に寄稿。ハードウェア、ソフトウェア、インターネット、クラウドサービスからモバイル、オーディオ、ガジェットにいたるまで、スマートな暮らしを提案しつつ、新しい当たり前を追求し続けている。インプレス刊の「できるインターネット」、「できるOutlook」などの著者。
山田祥平