なぜ私たちは野球で涙を流すのか【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第119回
プロ野球の大きな魅力のひとつは、「選手たちの物語を楽しむこと」だと思います。単純に、結果や数字を楽しむのもいいですが、選手の背景や物語、文脈などを味わうことに喜びを見出すのも醍醐味です。 そして、選手が成長をしていくのを見守る楽しみもあります。選手を家族のように思うファンも多いですね。特に右も左もわからないまま高卒でプロ入りして選手などは、我が子のように気になってしまう方もいるでしょう。 もちろん個人的に好きな選手もいますが、基本は球団のファンですから、チームのために献身的に働いてくれる選手のことを心から応援します。ケガを乗り越え、復帰登板でチームに勝ちをもたらしてくれた奥川投手に対するリスペクトもすごく大きいです。そして、チームや仲間、ファンへの感謝を忘れない言動に感動し、思わず涙します。 奥川投手の登板日はショートに長岡秀樹選手、セカンドには武岡龍世選手と、高卒同期入団の選手がスタメンに名を連ねました。試合後、奥川投手が「自分が苦しいときに後ろを見渡したら同期のふたりがいた」と口にしたように、どれだけ心強かったことでしょう。 野球に限らないことですが、選手にはひとりひとりの物語があります。そんなバックグランドを世に伝え、スポーツをもっと面白くするのがマスコミの方々。そんななかで、広く愛されるヒーローが生まれるのだと思います。 私の母は、プロ野球の試合後のヒーローインタビューを編集して残しています。選手が涙を流すことも多いですが、その後にニュースで背景を知ることがあります。そのうえでヒーローインタビューを見直すと、さらに盛り上がるのでオススメです(笑)。 プレーに"間"がある野球は、そこに情報を盛り込みやすく、ファンが感情移入しやすいスポーツだと思います。だから、常に涙と隣り合わせなんだと。 合言葉は「号泣するならプロ野球」。この先、どんなドラマが待っているのでしょうか。私たちファンも、そのドラマの一員なのです。 構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作