なぜ私たちは野球で涙を流すのか【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第119回
涙、涙の復活劇でした。 6月14日のオリックス戦で、ヤクルトの奥川恭伸投手が2年ぶりに一軍の先発マウンドに立ちました。結果は5回を1失点で勝利。2021年10月8日以来、980日ぶりの白星で、ヒーローインタビューはもちろん奥川投手でした。 【写真】山本キャスターの最新フォトギャラリー そのインタビューはとても感動的でした。 「ファンのみなさんに期待してもらっているなかで、すごい長い時間待たせてしまったので、今日勝つことができて、すごくうれしい気持ちです」 そう言ったあと、ボロボロと泣き崩れました。きっと、これまでのつらい日々が頭をよぎったのでしょう。涙で言葉にならない奥川投手のことを、球場のヤクルトファン、そして敵地のファンも温かい拍手で包んでくれました。 夜のニュースでもその様子は報じられましたが、「これでもらい泣きしなきゃ、人間じゃない」とウルウルしていた解説者の方もいたそうです。私は電車の中でライブで見ていて、もう涙でボロボロでした。家に帰って鏡を見たら、メイクが崩れてひどい顔でしたが、奥川投手の涙を忘れることはないだろうなと思いました。 さて、なぜ奥川投手のヒーローインタビューが感動的だったかといえば、その苦労を知っていたからです。2022年の開幕直後に右肘を痛めて登録抹消。その後は長く、先の見えないリハビリの日々を過ごし、「これから」というときに再度のケガでリタイア。そんな2年にわたる彼の苦労を、私は自分のことのように心を痛めていました。 振り返れば、奥川投手がドラフト会議でヤクルトから1位指名を受けたのは、2019年のこと。巨人、阪神と3球団の競合の末、高津臣吾監督が見事に交渉権を引き当てました。 交渉権を獲得した高津監督は「運は持ってないと思っていたので、こんなところに残っていてくれて嬉しい」と語りました。その言葉通り、2年目の2021年には9勝を挙げ、クライマックスシリーズでMVPを獲得するなど、その後もチームの主軸としての活躍することが期待されました。 しかし、ケガによって翌年からの2シーズンを棒に振り、ファンは復帰を待ち焦がれました。ただ、誰よりも復活を願っていたのは、他ならぬ奥川投手です。 私たちファンはその苦しみを知っていたからこそ、固唾を飲んで先日の登板を見守りました。4-1とリードしたまま5回でマウンドを降りた後も、勝ち星がつくように心から祈り、7回に1点差まで迫られたときは手に汗を握りましたね。そうして奥川投手が手にした白星は、とても輝いて見えました。