高級老人ホームで体験したまさかの"天然温泉かけ流し" 温泉地以外で楽しむ温泉の実力は?
源泉温度は約48度、石造りの湯船に「かけ流し」
さて、温泉である。温泉旅館のようなのれんをくぐったその先に、大浴場がある。石造りの湯船に「かけ流し」の温泉が注がれている。支配人から話を聞くまでは、「かけ流し」をうたっていても衛生管理上、消毒のための「塩素」は入っているのだろうと想像していたが、驚くことに塩素は入っていないという。塩素が入ると湯の個性が奪われるし、何よりも肌がガサガサになってしまうから、これはうれしい。 「源泉温度は約48度。温度を下げるための加水はしていますが、現在のところは、循環ろ過もしていなければ、塩素も入っていません」と支配人の丸山雅也さんが言う。加水にしても温度調整のための加水だから、極めて自然のままに近い温泉といえる。保健所の厳しいチェックをクリアするため、毎日の清掃をしっかりと行う。夜10時にお湯を抜き、翌朝は清掃して、午後1~4時まで、3時間かけて温泉を溜めるという。 ここは温泉地ではないが、「久留米温泉や近くにも温泉施設があるので、その事例をもとにきっと出るだろうと開発段階から計画し、温泉掘削を進めた」(支配人)といい、毎分450リットルの湯量を確保できる湯脈を掘り当てた。西鉄が管理する11施設の有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅の中でも、温泉があるのは二日市と久留米だけ。うち、かけ流しは久留米だけだ。 湯船のお湯がどのくらいで入れ替わるかは、湯船の大きさにもよっても変わってくるが、以前、温泉専門家の先生が「かけ流しの湯船を清潔に保つには1人最低、毎分1リットル」と言っていた。男女別浴場のある宿が毎分200~300リットルもあればかけ流しで提供しているし、入居者の数からしても450リットルは十分な湯量といえる。
「湯の花」が浮いている!まさに温泉情緒
中学2年まで、大分県別府市の海岸沿いにある旅館の息子として育った入居中の私の知り合いも、「入った瞬間に『いい風呂だ』と実感した」と絶賛。この温泉の存在が入居の決め手になったという。 今回は入居者のゲストとして、ゲストルームに宿泊した。夜9時から10時までの1時間だけゲストも大浴場に入ることができる。脱衣所に整然とカゴが並び、洗面スペースにはドライヤーが設置されている。温泉旅館のしつらえとほぼ同じ。温泉宿に来たかと錯覚する。 女風呂にはL字型の石の湯船と縁に木を貼った湯船がある。湯船の縁に座って出入りしたり、半身浴をしたりする段差がぐるりと設けられている。お湯は無色透明で一見、特徴がなさそうに思えるが、pH9.5のアルカリ性単純温泉はいわゆる「美肌の湯」。湯船に浸かって肌を触わると、つるつるとした感触。 よく見ると、白くて細かい湯の花が浮いている。循環ろ過器を通していない、かけ流しの温泉である証拠だ。高齢者向けの施設の場合、衛生面が重視されることの方が多いだろうが、この施設を開発した担当者の中に温泉好きがいたのかもしれない。湯船の清潔感とともに、温泉情緒や風情も大事にされていて、ここの入居者は幸せだなと思った。