「いまだに気に入らない」言語学者が聞き出した「俵万智」の本音とは? 「サラダ記念日」驚きの裏話(レビュー)
言語学者はどんな人に興味を持つのか? 本書には4人との対談が収められています。歌人の俵万智さん、ラッパーのMummy-Dさん、声優の山寺宏一さん、そして同じく言語学者・小説家の川添愛さんです。 それぞれの対談を感心、納得、驚きとともに読んだのですが、俵万智さんの創作秘話とも言うべき部分に特に驚いてしまい、しばしその部分を繰り返し読むことになりました。 俵万智さんは『サラダ記念日』で世に出ました。「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」を収めたあのベストセラーです。何もかもがピタッとハマッたいい歌だと思っていたのですが、あれは実話から出た歌で、「この味がいいね」と言ったのは元彼で、しかもそれはサラダではなく、カレー風味の唐揚げだったというのです。 「でも、この歌に『唐揚げ』という言葉を使うと、どうにも馴染まない。なんだか重く感じます。嬉しさや前向きな気持ちがモチーフになっているあの歌には、もっと爽やかで軽やかな語感の食べ物が似合っている。そこでサラダを思いつきました。そうなると季節は野菜が元気な六月か七月が適しています。ならば断然、『サラダ』の『S音』と響き合う七月の方がいい」 ここを何度か読んで低く唸ってしまったのです。ファンの間では有名な裏話かもしれませんが、ではこれはどうでしょう。 「『サラダ記念日』について本音をいえば、『この味』の『じ』の音は、いまだに気に入らないんです。あの歌には、『J』の音がどうしてもそぐわない気がずっとしている。何とかしたいな、他の表現はないかなと思いながらも今の形で落ち着いてしまった。余計な濁音が入っているようで違和感があります」 どうです、凡人の感性ではとても追いつかないのです。他の3人にも言及したいのですが、どうぞお手に取って熟読玩味のほどを。 [レビュアー]立川談四楼(落語家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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