世界遺産「軍艦島」上陸クルーズ:閉山50年を経た炭鉱街が“廃虚絶景”の観光スポットに
産業革命遺産を巡りながら軍艦島へ
閉山から半世紀がたった2024年は、高度成長期の島を舞台にしたテレビドラマ『海に眠るダイヤモンド』が放映。さらに注目度はアップし、現在5社が実施する上陸ツアーは軒並み盛況だ。 ツアー会社の一つ「軍艦島コンシェルジュ」のクルーズは、産業革命遺産巡りの魅力も併せ持つ。1日2便が発着する常盤港は、同じく世界遺産の構成資産であるトーマス・グラバーの旧邸に程近い。船上からは、日本最古でいまだ現役の電動クレーン(1909年完成)や、国内外の要人をもてなした洋風迎賓館(1904年完成)など、三菱長崎造船所の非公開施設を一望にできる。航路上の高島には、グラバーが開発に携わった三菱炭鉱もあった。こうした風景の解説に聞き入っていると、40分の船旅はあっという間だ。
やがて海原に軍艦島が姿を現した。島の周囲は明治期の石組みを補強するため、最高15メートルのコンクリートで護岸されている。世界遺産の構成資産はこの岸壁と、地下1000メートルの海底坑道の二つで、島全体が遺産保護のための緩衝地帯である。 上陸時間は40~50分。ツアーガイドと共に、鉱業施設だったエリアを片道220メートルほど歩く。地下600メートルのエレベーターがあった竪坑(たてこう)、炭鉱マンの共同浴場があった総合事務所などを巡り、最後にアパート30号棟を見学。日本最古の高層RC造アパートは、いつ倒壊してもおかしくないほど劣化が進んでいるという。間近に見る廃虚の姿は、海上から眺めるよりはるかに迫力と哀愁を感じられる。 住居エリアは建物崩落の危険があるため立ち入り禁止。ごくまれに波が高いと着岸できず、島の周囲を船で巡る周遊ツアーに変更することもある。失われていく街の遺構を瞳に焼き付け、往時の営みに思いをはせてほしい。
ミュージアムで廃虚をバーチャル探検
軍艦島コンシェルジュのツアーは「軍艦島デジタルミュージアム」の入館とセット。発着場から徒歩5分の場所にあり、上陸前の予習や上陸後の余韻にふけるには最適だ。 館には元島民からの資料の寄贈品や、島を愛するクリエイターによるデジタル展示が豊富。ドローン映像のVR視聴コーナーもあり、廃虚の街の空中散歩気分を味わえる。長崎観光の際は都合が合わずツアーに参加できない人も、近隣の名所グラバー園と併せて訪ねておきたい。 軍艦島コンシェルジュは長崎市の協力の下、住居エリアを見学できる特別ツアーを25年に開始予定だ。近代から高度成長期の営みを伝える住宅群は、風雨にさらされて崩れ続け、刻一刻と姿を変えている。“昭和の遺跡”は訪れるたび、一期一会の絶景で魅了してくれるだろう。 ツアーの詳細・予約は「軍艦島コンシェルジュ」公式ホームページを参照 取材・文=ニッポンドットコム編集部