土木が原風景となる時(6)大地に刻まれたクロソイド曲線「圏央道 高尾山IC」
かつて、ナチス政権下にあったドイツの高速道路アウトバーン(Autobahn)にて導入されたクロソイド曲線(clothoid curve:緩和曲線)は、安全かつ容易なハンドル操作のための道路線形として広く活用されている。直線から円弧に入る場合、またはその逆の場合、このクロソイド曲線を介することにより、スムーズかつ安全な走行が可能となる。
このような精緻に設計されたインターチェンジやジャンクションは、機能美を具備する優美な幾何学形状を呈する。例えば、クローバー型やトランペット型のインターチェンジは、かつては近代高速道路網の象徴でもあったが、今世紀では都市の見慣れた光景ともなっている。
さて、ここで紹介する圏央道の高尾山インターチェンジ(東京都八王子市)は、いささか様相が異なる。高尾山IC~相模原愛川IC間の開通直前に撮影された航空写真を見てもらいたい(写真1)。ここでは、複雑怪奇な幾何学模様と化したインターチェンジが青色とオレンジに浮かび上がり、ひときわ鮮やかな光彩を放っている。この感動的とも言える光のページェントを、当時の読売新聞は、「光の『知恵の輪』」と報じている(2014年6月24日 夕刊)
この不思議な非対称線形の意味合いは、写真2にて得心する。在来国道(国道20号線)の直上に高速道路(圏央道)が立体交差し、ここにインターチェンジが新設されたのだ。狭隘な建設地点という難題を克服した高尾山インターチェンジは、設計・施工に携わったエンジニアの高度な技量と勇断を如実に物語るものである。
大地に刻まれた巧妙なクロソイド曲線は、また得も言われぬアーティスティックな曲線を描きだし、言わば、近代道路工学と自然の摂理との対話であり、ある意味妥協点とも解釈できよう。 カーナビに浮かぶ流麗なクロソイド曲線から、道路工学の妙味を窺い知ることも、土木の楽しみ方の一つとして提案したい。
話は遡るが、我が国の高速道路の幕開けとなる名神高速道路の計画・設計に際しては、西ドイツ(当時)の道路技術者が、線形コンサルタントとして招聘されたとも聞いている。道路工学の先達であるドイツのアウトバーンが、我が国の複雑かつ狭隘な地形に応用発展していることは、何とも誇らしい思いである。