「私の死後、ペットが心配です」 遺言書を生前に準備 信頼できる人に飼育費を託す仕組みも【弁護士が解説】
超高齢社会の現代、高齢者がペットを飼うケースも増えてきているようです。元気な若年のペットよりも、年齢相応に落ち着いたペットが良いということで、中高齢の保護犬猫をマッチングすることも盛んに行われているようですが、自分が亡くなった後にペットはどうなってしまうのか、と不安に思う方は多いのではないでしょうか。 【写真】「保護した猫を動物病院に連れて行ったが、断られた」…獣医師が診察を拒否できる“正当な理由”とは ▽1 自分の死後、ペットはどうなってしまうの? 亡くなった方が飼っていたペットは、亡くなった人の所有していた預貯金や車、貴金属などと同様、「相続財産」として取り扱われます。相続人がいれば、相続人に相続されます。つまり、残された配偶者や子どもがペットの飼い主を引き継ぐわけです。 相続人が複数いる場合は、相続人の間で遺産分割の協議が成立するまでの間、相続人全員の共有財産となります。「共有」というとみんなで面倒を見てくれるように聞こえるかもしれませんが、現実的には誰かが責任を持って世話をしなければなりません。「相続人のうちで誰が世話をするか」がすんなり決まればいいですが、誰も世話をしたがらない、したくてもできない場合や、相続紛争が起こってペットの世話どころではなくなってしまう場合もあります。 相続人が誰もいない場合は、相続財産は法人となり、裁判所に選任された相続財産清算人が、その相続財産の管理・清算をすることになります。ペットも相続財産清算人の処分に委ねられることになります。もっとも、相続財産清算人は誰かが選任の申立をしなければなりません。誰にも申立がされなければ、ペットの飼養は宙に浮いた状態になってしまいます。 このように、相続の場面においては、誰もペットの世話をしてくれる人がいなくなってしまう危険性が常に潜んでいるのです。 ▽2 どうすればいいだろうか? 法律的な対策を講ずる前段階として、自分が亡くなったあとのことをリアルに想像しておく必要があります。 ペットを相続紛争に巻き込まないようにするために、自分の死後に相続争いが生じないように備えることが必要でしょう。言い換えれば、死後のペットのことを考える場合も、ペットの扱いだけではなく、自分の相続問題を総合的に検討しておく必要がある、ということです。 ペットについては、自分の死後に飼育を任せられる人を探しておかなければなりません。1でお話したように、法律はペットの相続人だけは決めてくれますが、それ以上のことは何もしてくれません。 ペットは、飼い主に依存しなければ生きていけません。自分の死後にペットをしっかりと飼育してくれる人・環境を探しておくこと、これは、飼い主が負うべき終生飼養義務(動物愛護法7条4項)の一つと言っても良いと思います。 そのような信頼できる人物・団体が見つかったら、その人物・団体に対して、自分の死後にペットの所有権を移転させる方法を検討します。 ひとつめは、遺言を作成する方法です。遺言の中で、信頼できる相続人にペットを相続させる(相続人以外の人物である場合はペットを遺贈する)と定めておきます。これによって、飼い主が死亡した場合は、その人物が直ちに新たな飼い主となることができます。 ただし、相続も、遺贈も、放棄することができます。ある人物を信頼できると考えて、その人を新しい飼い主と一方的に遺言に定めていても、いざ相続が発生した段階で、その人から引取を拒否されてしまう可能性もあるのです。 ですから、単に遺言を書き残しておくだけではなく、生前にきちんと事情を説明して、その了解を得ておく必要があります。時々勘違いしている人がいますが、遺言の内容は生前に公開していても問題はありません。 また、その人物に対しては、飼育を押し付けるような形にならないよう、飼育に必要なだけの財産を別に渡しておくことも必要となるでしょう。 ふたつめは、ペット信託を利用する方法があります。 信託とは、自分の財産を信頼できる人に託し、その人にその財産を一定の目的のために管理・使用してもらう契約です。この制度を利用すれば、ペットが生きていく上で必要な財産を、ペットのために残すことが可能となります。 この方法は、飼い主が死亡した場合だけではなく、例えば認知症が悪化したとか施設に入所することになったとかいった、ペットを以後飼えなくなるような事情が発生した場合にも対応できる点で遺言よりも優れています。その分、信託契約という複雑な制度設計をする必要がありますので、この方法を取る場合は専門家への相談をおすすめします。 どのような方法が最適なのかはケースバイケースです。相続対策は総合的な視点から行わなければなりません。自分の死後のペットの扱いに不安を覚えている方は、相続問題や信託契約に詳しい弁護士などの法律専門家に相談・依頼することをお勧めします。 ◆石井 一旭(いしい・かずあき)弁護士法人SACI・四条烏丸法律事務所パートナー弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。
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