俳優・柴本幸さん、アメリカ移住し「笛吹き」として活動…「笛との出会いは運命」
ロサンゼルスに戻ってみると、ここでもメロディーが浮かんでくる感覚を感じた。「カリフォルニア州って、実は自然に恵まれている場所なんです。ロサンゼルスの華やかな街並みと対照的に、少し車を飛ばせば、原始的にも感じるような大自然が残っているんです」。カリフォルニアの大自然に身をゆだねると、曲のインスピレーションがたくさん浮かんできた。そこで曲を生みだし、リコーダーを吹く時間を日常の中に持てることが、とてもぜいたくに思えた。「カリフォルニアの自然のそばにいたいと思って、移住を決意しました」
しばらく日本とロサンゼルスの往来を重ね、2019年に必要な就労ビザを取得し、同年12月から移住した。「『移住したのは、芸能界が嫌になったから?』と聞かれることが少なくないのですが、まったくそんなことはないです。自分の本心に立ち返って、最終的に直感に従った結果です。所属事務所には、寛大な対応をしてくれたと本当に感謝しています」と話す。
「自分の心に正直に生きている」
自然やアート作品に触れたとき、自然とメロディーが浮かんでくるから、「今まで、自分の感情や経験を曲で表現したいと思ったことは一度もない」と語る柴本さん。日本での役者としての生活から、アメリカでリコーダー中心の生活になった自分をどう思っているのだろうか。
「今は、本当に自分の大本に戻った気がしています。師匠の音色に憧れ続けた頃の自分に。他人からどう見られるのかを意識するのではなく、自分の心に正直に生きていると思います。師匠から教えていただいた松尾芭蕉の『古人の跡を求めず、古人の求めしところを求めよ』という言葉が今の指針になっていますが、師匠に近づきたいと必死になりすぎず、師匠が目指す光を、後ろから追いかけていきたいと今は思っています」。ひたむきだが、「なぜ笛をやっているかと言えば、ただ好きなだけなんです」と言い切る。
柴本さんの人生を変えたリコーダー。その魅力は何なのか尋ねると、「うそをつけないこと」と答えた。「笛って、楽器の発音源となるリードがないんですよ。息を吹き込むと、そのまま音になるんです。音にうそがない。良くも悪くも、自分の心や体の状態がそのまま反映する楽器だと思います」と語る。