俳優・柴本幸さん、アメリカ移住し「笛吹き」として活動…「笛との出会いは運命」
その写真に何が写っていたのか。「見た瞬間に何かが変わるという写真ではないんです。多分それまでいろいろと考えていたことが、既に潜在意識の中にあって、写真をきっかけに、実際に『行こう』と動くまでに至ったのだと思います。今考えると自分でも不思議なんですけれど」
何の写真だったかは、いくら聞いても「言えません」と笑いながらかわされた。「大きな決断の時に、体で何か感じることが多いんです。その時の感覚は、自分の中だけで大切にしたいんです」
現実突きつけられ、歩み振り返る
アメリカの名作映画が好きだったので、本場で演技のレッスンを受けてみたいという思いは以前からあった。同年の秋にロサンゼルスに行き、様々な芸能関係者と会ったが、「ほとんど相手にされませんでした。紹介してもらって人に会ったりしたものの、会うことと、一緒に仕事をするということは、まったく別物でした。現実を突きつけられた感じがしました」。
ロサンゼルスで思うように仕事は得られず、ビザの関係もあり、約3か月でいったん帰国した。「がむしゃらに頑張ってみましたが、精神的にかなり疲弊していました」。そんな状態の時、柴本さんは自分の歩みを冷静に振り返った。「このまま日本で仕事を続けていても、周りに迷惑をかけるだけで、自分もダメになるんじゃないかって思えてきました。自分の人生に本当に必要なものは何なのかを考えたとき、頭の中でこうでなければならないと思っていたものが、何一つ心の琴線に触れず、自分自身には何もないんだということに唖(あ)然(ぜん)としました」。柴本さんは自分の根幹は何なのか、考えた。「いつも変わらず自分が正直にいられたのは、笛を吹いているときだと気づいたんです。それ以来、笛に没頭するようになりました」
絵を見てメロディーが浮かぶ経験
ロサンゼルスから戻り、以前のようにリコーダーと深い関わりを持ち始めた頃、友人の華道家に台湾旅行に誘われた。ここでも柴本さんは、直感で行動することになる。
台湾の国立故宮博物院でミカンのような絵を見ていたときだった。突然、柴本さんは耳鳴りのような感覚を感じた。実はそれは耳鳴りではなく、自分の中でメロディーが浮かんでくる感覚だった。見る絵が替わると、違うメロディーが聞こえてくるような感じだった。柴本さんはホテルに帰り、持ってきていたリコーダーで、浮かんだメロディーを奏で、スマホに吹き込んだ。作曲を始めるきっかけとなった出来事だった。そして、「また直感で、アメリカに戻らなくてはと思ったんです。あんなにしんどかったのに」。