【高校野球】土壇場で追いつきタイブレークで勝利の早実 9年ぶりの夏甲子園へ破った殻
最後まで投げ切った左腕
ベンチに控えるバックアップメンバーが最善の準備をし、各々が役割を果たした。チームとして粘れたのも、延長10回を一人で投げ切った中村の投球なくして語れない。 昨秋は東京大会4強進出へと導いたサウスポーである。今春はコンディション不良により登板なく、調整を重ねて、この日の初戦(シード校のため、3回戦から登場)を迎えた。気迫の投球で、6回以降は失点を許さず、無死一、二塁の10回裏のタイブレークも無失点で締めた。「10回のことはあまり、覚えていません。ミットをめがけて投げるだけでした」。雨が降り注ぐ中でも、集中力が光った。 中村は京都府出身。中学時代に在籍した京都ベアーズの先輩にあたる早大の3年生右腕・田和廉にあこがれ、早実の門をたたいた。今春から下級生ながら背番号「1」を着ける。 「歴代の先輩方、斎藤佑樹さん(元日本ハム)ら西東京を代表する投手が背負ってきた。自分がやらないといけない」 2024年のドラフト1位候補である関大の左腕・金丸夢斗(4年・神港橘高)を理想の投手像に挙げる。「制球力が良く、伸びのあるストレート。トレーニングも参考にしています」。夏までの期間、投げられない中でも細部までレベルアップに努めてきた。故障明けのエースを最後まで投げさせた和泉監督は「他がいないですから……(苦笑)。ただ、負けたら次がないので……。ケガで久しぶりなので、疲労が心配ですが」と体調を気遣いながらも「日程的にこういう大会なので、チームとして皆でやる」と、一戦必勝を誓った。
難しい初戦を突破し、4回戦進出。16人が夏独特の雰囲気を経験できたのは大きい。伝統校を率いる主将・宇野は「(重苦しい展開は今後も)変わらないと思う。こういう状況は何回も来る。同じ場面になっても受け身にならず、自分のやるべきことをやる。最後の一瞬まで、今のことだけを集中してやっていこうと思います」と気を引き締める。「強い早実を復活させる!!」。日本ハム・清宮幸太郎が1年生だった2015年以来、9年ぶりの夏の甲子園出場へ、一つの殻を破ったのは間違いない。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール