「ご遺体処置用品のAmazon」を目指して 葬儀を支える会社が事業開拓で売り上げ3倍に
東京都江戸川区のイワタは、葬儀業のプロが遺体を生前の姿に近づけるために使う薬剤や脱脂綿などの企画や卸売りを手がけています。3代目の岩田壮一郎さん(44)は2015年、苦境にあえぐ家業に入社。商品の製造元となる地元町工場との関係を深め、除菌消臭剤の開発、エンバーミング(遺体衛生保全)を支える海外製薬剤の輸入、脱脂綿など葬儀関連製品のラインアップを拡大。「ご遺体処置のAmazonを目指す」とうたうまでになりました。若手社員に商品や新規事業を任せるといった改革も進め、売り上げを3倍に伸ばしました。 【写真特集】人手不足に負けない 中小企業の人材採用の工夫
除菌消臭剤がコロナ禍でヒット
イワタは岩田さんの祖父、清一郎さんが1938年に東京都墨田区で創業した岩田商店がルーツ。「八重十字」というオリジナルブランドを手がける脱脂綿のメーカーでした。戦後は衛生材料全般を扱う卸販売にシフト。ドラッグストアの台頭で価格競争が激化すると、2代目の父・庸一郎さんはあらたな販路として葬儀業界を開拓しますが、巻き返そうにも限界がありました。 岩田さんが家業入りした2015年は庸一郎さんとパート2人という陣容。「ヒトもモノもカネもまったく余裕がない」状況でした。 「大手を相手にすればどうしたって価格で負けます。生き残っていくためにはやはり、オリジナル商品の開発が急務でした」 四方八方に広げたアンテナに引っかかったのがPHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)でした。知恵を借りるべく訪れた工業薬品製造の島田商店(東京都墨田区)3代目の嶋田淳さんが口にしたPHMBは、次世代の消毒成分と目されていました。 嶋田さんとは事業後継者のためのビジネススクール、フロンティアすみだ塾で知り合いました。嶋田さんは後に重要なビジネスパートナーとなります。 嶋田さんの協力をとりつけた岩田さんは2016年、PHMBを主成分とした除菌消臭剤「タイトスクラム」を完成させます。「タイトスクラム」は間をおかず取引先の大手葬儀社、サン・ライフ(神奈川県平塚市、現サン・ライフホールディング)での全館導入が決まります。勝因は血液やたんぱくなど葬儀特有の発生物質に強いという特性にありました。 販売から4年、世界はコロナ禍に襲われました。 「耳が痛くなりました。一日中、(注文の)電話が鳴りやまなかったからです。当時の月間売り上げはいまだに破られていません。それまでの借り入れもコロナ融資に切り替えました」 2019年に社長に就任したばかりの岩田さんは、ほっと胸をなでおろしました。