「ご遺体処置用品のAmazon」を目指して 葬儀を支える会社が事業開拓で売り上げ3倍に
商品ラインアップは千の大台に
「(2015年に)家業入りしたわたしは、いの一番に現場に足を運びました。納棺師や湯灌師といった現場のプロと向き合い、彼らが望んでいるものを知ろうと思ったんです。このやりとりからわかってきたことは、彼らの多くは現状の道具に飽き足らず、みずからカスタマイズしているということでした」 プロのお眼鏡にかなう商品をつくればいい――。現場の声をフィードバックしたのが、「フロンティアすみだ塾」を通して出会った地元の町工場でした。 「正直にいえば、『町工場の経営者の集まりなんて』とハスに構えていました。父にいわれて仕方なく顔を出したのがそもそもです。しかしそこで嶋田さんをはじめとした意欲的な経営者たちと知り合うことができました。当社のオリジナル商品の多くは地元でつくられています」 好例が、イワタの礎となる脱脂綿。サイズや柔軟性、伸縮性などにバリエーションをもたせ、きめ細かく取りそろえました。 商品開発の土台を構築したイワタは現在、年に20~30のペースで新作をリリースしており、保湿クリーム、吸水シーツ、包帯など、そのラインアップは千の大台がみえてきました。 気づけば葬儀関連の商品が広く、深くそろう唯一の会社になっていました。岩田さんは「ご遺体処置のAmazon」を旗印に掲げました。 従来の商慣習では、たとえば脱脂綿なら脱脂綿の問屋があり、その問屋の営業先は病院や化粧品メーカー、葬儀社など業界を横断するものでした。イワタのように「遺体処置」というくくりで掘り下げる企業はありませんでした。
若手抜擢でペット事業を開発
「わたしが商品開発を前に確認するのは数字面くらいで、あとはスタッフに任せています。いまでは知らぬ間にカタログに載っている商品もあるくらいです」 商品開発において大きな戦力になっているのが新卒で採用した社員です。 エンバーミング薬剤の成功を見越した岩田さんはエッケル社と契約した年に新卒採用に踏み切ります。大手就職情報サイト・リクナビで募集した2022年以降、続けて200人の新卒がエントリーしました。現在の社員数は正社員が6人、パートを含めれば20人を数えます。 キャッチーでユニークなビジネスモデルを創造したその先見の明が評価されたのは間違いありませんが、魅力ある企業として映る「化粧」にも工夫を凝らしてきました。それが若い力を積極的に活用するスタンスです。 「イワタは能力さえあれば事業を起こすことも商品を開発することもできる。面接では事業化を視野に入れたワークショップも行っています」 2023年に立ち上げたペット事業もワークショップから生まれました。そのプレゼンによれば、たしかに有望な市場でした。少子高齢化が進む日本では中学生以下の人口よりもペットの数のほうが多いといわれています。にもかかわらず、葬儀社がほとんどかかわらない分野でした。 岩田さんは入社したばかりのその若手を開発リーダーに抜擢、そうして完成させたのが飼い主がみずから行うケアセットの「プティ・タンジュ」でした。ボディーシートや除菌スプレーなどエンゼルケア(死後処置)に必要な道具が一通りそろいます。 お披露目となったトレードショーは人が入りきらないほどの盛況で、大手業者との取引も始まりました。