「ご遺体処置用品のAmazon」を目指して 葬儀を支える会社が事業開拓で売り上げ3倍に
エンバーミングの市場を開拓
イワタのもう一つの柱となるエンバーミングに導いてくれたのもサン・ライフでした。 エンバーミングとは消毒、修復、防腐することにより遺体を生前の姿に近づける技法で、その歴史は古代エジプトまでさかのぼることができます。欧米ではポピュラーな処置方法ですが、火葬文化が定着している日本は遺体保冷庫による低温保存を採ってきました。 日本遺体衛生保全協会によれば、日本に導入された1988年に191件だったエンバーミングの処置件数は右肩上がりに伸び、2015年には3万3千件を数えました。 背景には延命治療や高度治療の結果として遺体が腐敗しがちなこと、死亡者数の増加で火葬渋滞が起きていること、そして穏やかにお別れしたいという遺族の思いがありました。 将来性のある分野にもかかわらず、後発の日本においてエンバーミングに使われる薬剤の供給は1社が独占する状態でした。 2016年、岩田さんは日本遺体衛生保全協会が主催する北米技術研修への参加を決めるも、そこに待ったがかかります。父が何十万円もかかるツアーに難色を示したのです。大きなビジネスになる可能性を秘めていると説得してくれたのが嶋田さんでした。嶋田さんには製造を請け負ってもらう算段で、すでに声をかけていました。 勇躍乗り込んだ米国でも様々なアクシデントを乗り越え、岩田さんはカナダの大手・エッケル社にたどり着きます。 担当にライセンス契約をもちかけたところ、「うちの名前で商売したほうがいいんじゃないか」とアドバイスされます。世界中にその名を知られるエッケル社の薬剤は量も出るため価格も安定しています。いわれてみればなるほど理にかなっています。岩田さんはエッケル社の助言に従い、翌2017年、島田商店を輸入総代理店に据えて販売を開始します。 エッケル社は現在、日本国内におけるエンバーミング薬剤の6割のシェアを占めるにいたりました。当初191件に過ぎなかった処置件数の総数は2022年、7万件に達しました。 価格も薬剤としての品質も秀でていたのはたしかですが、軌道に乗せるまでの愚直な努力も見逃すことはできません。岩田さんは嶋田さんとともにそれこそ額に汗して、全国の葬儀会社を営業に回りました。意見の違いから駅前で深夜12時から朝の4時まで大げんかしたこともありました。