日本一の背中で見せる男・須江正尋「木澤くんは引退するけど、自分は続けます。誰かに何かを伝えることができるなら、それは自分の使命」
10月19日に東京・日野市民会館(ひの煉瓦ホール)にて行なわれた「ジュラシックカップ2024」。日本のトップビルダーたちがしのぎを削る熱戦の合間には、吉本興業とタッグを組んだエンタテイメントステージの他、レジェンドビルダーによるゲストポーズも行なわれた。 【フォト&ムービー】木澤大祐&須江正尋のゲストポーズ
最初に登場したのは、本大会の主催者の一人であり、今年の日本男子ボディビル選手権で優勝し日本一に輝いたジュラシック木澤こと木澤大祐だ。日本選手権においては、今シーズンで引退を表明していることもあり、“ラストステージ”を印象づけるようなステージではあったが、この日は本来の威圧感のある筋肉を前面に押し出し、最後は咆哮と共にマスキュラーポーズを決める、まさに“ジュラシック”というポージングを披露した。 そのステージの熱量が冷めやらぬ中、暗闇の中から、バイオリンの音色とともにもう一人の「シークレットゲストポーザー」が姿を現すと、会場は息を飲むように静まり返った。 その男は、須江正尋だ。 日本一とも言われる巨大な広背筋を武器に人気を集めるレジェンドビルダーであり、ゆったりとした音色から徐々にBGMがテンポアップしていくと、それに呼応するように声援ももヒートアップ。芸術性の高い美しきポージングと、マスキュラリティ―あふれる豪快なポージングを混ぜ合わせたポージングで、会場のボルテージは最高潮に達した。
2人が場内を一周しステージに戻ると、運営を司るKENTOを交えたトークの時間が設けられ、木澤は須江をゲストポーザーに招いた理由についてこう説明した。 「ボディビルが他のカテゴリーと違うのがフリーポーズ。僕はもう長年、『いい加減にしろ』っていうぐらいフリーポーズが下手くそで、今思うともっと練習すればよかったなと思うんですけど。そんなボディビルの魅力であるフリーポーズと言えば、須江正尋選手。今後の若い世代に残したいフリーポーズ、須江正尋という選手を見てもらいたいと思って、今回はゲストポーズをお願いしました。 須江さんと言えばやっぱり背中なんですよね。大先輩が背中を皆さんに見せつけているところを見て、非常に感銘を受けて、感動しました。背中で語っているなというのがすごく伝わっていて、今日は須江さんをゲストで呼んで本当に良かったと思います」 一方の須江もその言葉を受けて、引退を決めた木澤に対して餞別のメッセージを送るとともに、自らの今後についても語った。 「木澤くんは今年で引退という重い決断をされたのかなと思います……けど、私はまだ続けます。おそらく、ピークと言うことを考えたらとっくに昔に過ぎています。でも、まだ少しでも自分を変えられる可能性があるとしたら、あるいは誰かに何かを伝えられることができるのであれば、それは自分の使命として続けていくべきなのだと。自分がどういう形で終わりを迎えるかはわからないですけど、とりあえずはまだ、続けていこうと思います」 続けて、KENTOから「須江選手にとってボディビルとは?」と問われると「この競技を続けていくにあたり、いろんなことがありました。怪我もしましたし、いろいろな方に協力をいただきながらやってきました。そういうものも含めて、ボディビルは自分の生き様そのもなのかなって感じています。生涯というか、今までの人生の大半をかけてやってきたことがボディビルであり、これからもそれが継続していくと思います」と話した。
2人がステージで言葉を交わす間、袖では木澤の愛弟子である杉中一輝と、昨年の今大会では木澤が特別賞「ジュラシック賞」を授けた山本俊樹らが熱い眼差しで見守っていたのも印象的であった。 単にボディビルコンテストを開催するのみならず、「ボディビルの未来」のためのステージを見せた木澤と須江。それぞれ今後の道は異なれど、ボディビルのレジェンドとして歩を進め続けていく。
文・写真/木村雄大