「なぜ私が不合格になったのか」――医学部不正入試、被害女性の苦悩と闘い
種部医師は、大学病院の医局長を務めたこともある。女性医師にも男性医師にも働きやすい職場をつくることの重要性を痛感している。 「子育て中の女は使えないとか、子育ては女の仕事だとか、そういったバイアスが排除されなければ、フェアな評価は望めません。女性差別を『必要悪』と切り捨てるのではなく、お医者さんたちみんなが働きやすい環境をどうつくるかが本質でしょう、と言いたいわけです」
大学側の回答は
2019年6月に三浦さんが提起した裁判は、現在も続いている。今のところ3大学とも、不合格の理由が性別であるとは認めていない。金弁護士はこう明かす。 「東京医大について言うと、三浦さんは減点されたあとも合格範囲内にいたんです。なぜ落としたんですかと裁判所が聞いても、東京医大は、わかりません、資料が残っていない、でも性別を理由に不合格としたわけではありませんと答えるわけです。で、付属病院の医師を確保するためには、年齢で差別するのはやむを得ない、入試の合否判定は総合判断で行ったもので裁量の範囲内だというんですが、不合理な言い訳に聞こえます。結局、総合判定、面接等の問題にされてしまうと、情報はすべて大学にあるので、対処が難しい。裁判では、どこまで不合格となった理由を追及できるかにかかっています」 東京医大に、金弁護士が話している内容は事実か、年齢や性別による差別はなかったのかをたずねたが、「個別の事案につきましては、回答を差し控えさせていただきます」との回答だった。
三浦さんは今の心境をこんなふうに語る。 「判決が出たら区切りがつくのかもしれませんが……自分の中のもやもやがはたして晴れるのかどうか、わからないところはあります。また起こってしまったら、全然意味がないと思うので。再発防止につながるのであれば、和解に向けた話し合いもしたいと思いますが、どうなるかまだわからないです」
三浦さんの目標は内科専門医
三浦さんが医師になりたいと思ったきっかけは、8年前の父の急死だった。 その日の夜、離れて暮らす父も交えて、家族で食事をすることになっていた。しかし、昼間に「体調が悪いから行けない」と父からLINEがきた。気になって数回LINEを送ったが、メッセージは既読にならなかった。翌日警察から、ホテルで亡くなっているのが見つかったと連絡があった。 「すごく後悔しました。命にかかわる状況だと気づいてあげられたのは私だけだったんじゃないかと……。家族にも親戚にも医療系の人間はいないので」 当時、三浦さんは大学生。父の死をきっかけに、医師になりたいと強く思った。卒業して働き始めてからも、その思いは消えなかった。 今年4月に3年生になった三浦さん。将来は、父が患っていた病気に関連した、内分泌代謝疾患を扱うような内科の専門医になりたいと思っている。 医師になったらどんな働き方を望みますかと聞くと、少し表情が明るくなった。 「バリバリ働きたいです。将来的には子どもをもちたいという気持ちもあるので、ワーク・ライフ・バランスをどうしていくかという課題はしっかりと考えたいと思いますが、今は医療現場でバリバリ働いて、患者さんを間近で診ていきたいという気持ちが強いです」
--- 長瀬千雅(ながせ・ちか) 1972年、名古屋市生まれ。編集者、ライター。