「なぜ私が不合格になったのか」――医学部不正入試、被害女性の苦悩と闘い
東京医大の得点操作が発覚する前から、その問題に強く警鐘を鳴らしていた医師もいる。 富山市で女性クリニックの代表を務める産婦人科医の種部恭子氏(56)は、2017年に「女性医師が増えないようにゲートコントロールされているのではないか」と指摘していた。 種部医師が働き始めた1990年ころは、医師国家試験合格者に占める女性の割合は少しずつ増加していて、2000年に3割を超えた。 「『女性医師4割時代がくる』と言われていたんです。4割を超えたらきっと5割にもなるだろう。私はそれをとても楽しみにしていて、産休育休をとる人もいるだろうから医師の数を増やしたほうがいいんじゃないかとか、ワーク・ライフ・バランスにも取り組まなければいけないとか、いろんなことを主張していたんです」
しかし、10年経っても「4割時代」は到来しなかった。データを見ると、2003年以降「定規で線を引いたように」(種部医師)3割強が続いていた。 文科省の入試データから男女別の合格率を分析し、医学部だけが女性の合格率が男性に比べて極端に低いことを示す論考を、日本女性医療者連合のサイトに載せた。しかし、医療界の反応は鈍かった。 「そりゃあそういうこともあるだろうね、と言われました。今回はたまたま、東京医科大学の問題で表に出てきましたが、国立大学や公立大学でも女性の合格率は低く抑えられています。私立だけの話ではないんです」
問題の背景にある「過重労働」
なぜこんなことが起こるのか。種部医師は「背景に過重労働がある」と言う。 日本の医療提供体制の特徴は、国民皆保険であることと、患者にフリーアクセス(いつでもどの病院でもかかることができる)を認めていることだ。にもかかわらず、病床当たりの医師の数は先進諸国と比べて非常に少ない。増える患者数や患者のニーズを、病院は医師の過重労働で吸収してきた。 「この国の医療費を考えたときに、これ以上診療報酬を上げるわけにはいかないこともわかります。じゃあどうするかというと、現状は若いお医者さんたちの労働力をダンピング(安売り)しているんです。大学院生や研修医は、ほとんど無報酬で働かされています。医師の数は政策で決まるから、女がそのパイをとってしまうと、出産や子育てで休んでいるあいだ、男が働かなきゃならないじゃないかという考えになるわけです」 しかし、だからといって「女子一律減点は必要悪」という意見には与(くみ)しない。 「私は、医師が男女半々になったほうが、医療は安全になると思っているんです。患者の半分は女性です。多様なニーズに応えるために多様な医師が必要だし、多様な働き方が必要です。女性医師はガイドライン順守や地域医療連携が得意などの理由で、主治医になったときに救命率が高いという米国の論文もあります」