「新型プリウス」何が変わったのか? トヨタのクルマづくりの転換点
社長から「良いクルマを作れ」
さて、技術的な詳細説明をしてきたのだが、実は新型プリウスの真骨頂はそこにあるわけではない。長々と技術説明を書いたのが無駄だとは思っていないが、そういう要素技術をいくら説明しても、最終的にクルマが良いか悪いかはわからないのだ。要素と要素は直接比較できない。それが評論の難しいところである。人間に置き換えるとよく分かる。頭が良いとか、仕事が出来るということは一要素であって、別に全人評価とは直接的につながらない。だから最後にプリウスをまとめる話をしたい。それはクルマづくりのリファレンス(基準)の話である。 エンジニアに聞いてはっきり感じたのはリファレンスの明確化である。例えばこれまでのトヨタ車は、ステアリング、ペダル、シートのようなヒューマンインタフェースの設定が主査任せだった。つまり主査の見識や、クルマの抱えている事情でそれが良くなったり悪くなったりするのである。 それでは「良いクルマ」とは何なのかがちっとも伝わって来ないのだ。しかしトヨタはTNGAを通じて、全社的にそのリファレンスを明確化した。ドライビングポジションはどうあるべきか、ハンドリングはどうあるべきか、乗り心地はどうあるべきか、そういう無数の「べき論」を共有化したのである。 結果としてクルマ全体にはっきり方向性が定まってきた。プリウスが良くなったのはその結果だ。だから筆者は聞いた「いったいどうやってこの巨大な会社が一つの方向を向くことができたのか?」 それに対する答えは明確だった「やはり社長がはっきりと良いクルマを作れと宣言したことです」。筆者は新型プリウスが完璧だとは思わない。デザインを始め、まだまだ課題はたくさんある。しかし、きっとトヨタのクルマが大きく変わった記念すべきモデルとして後に思い出されることになると思う。少なくとも、トヨタ車として異例にエポックメイキングなクルマであると筆者は思うのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)