SNSで炎上した芸能人を、執拗に叩く人は「正義中毒」に陥っている
自分と異なるものをバカにし合う不毛な社会
SNSで飛び交っている、正義中毒者がなぜか頻繁に使用する単語は「バカ」です。自分が絶対的に正しいという過剰な思い込みから、異なる考えを持つ他人をバカと決めつけ、攻撃(バッシング)を加えます。 災害時などに見られる過剰な不謹慎叩きや、芸能人の不倫叩きも、こうした見方から再考すれば、「あいつはバカだ」「あんなバカなことをするやつは許せない」「叩かれて当然だ」という、正義中毒者の暴走と見ることができるのです。 ネットの登場とSNSの普及によって、私たちはより正義中毒にかかりやすくなりました。また、中毒症状が全世界に公開される場が出現してしまったことで、誰がバカなのか、誰が自分よりも劣っているのかを常に気にし続けなければならない状況が派生的に誕生しました。 自分がバカだと思われることを恐れ、自分がターゲットにならないために、パッシブ(受動的)に他人を叩く行為に加担する(あるいはスルーして助けない)という現象が見られるようになったのです。これは、自分がいじめのターゲットにならないように、いじめに加担する構造とよく似ています。 1984年、ニュージーランド・オタゴ大学のジェームズ・フリンが提唱したところでは、人類は20世紀以降、IQ(知能指数)を年々向上させていると言われます。1932年と1978年のIQを比較すると13.8ポイント高くなっており、1年に0.3ポイントずつ上昇していくというのです。 これは「フリン効果」と呼ばれています(The mean IQ of Americans:Massive gains 1932 to 1978. )Flynn, J. R. (1984).(Psychological Bulletin,95(1), 29-51.)。 栄養状態の改善や、情報、知識を得るためのツールの充実によって人は着実に知能が上がっているはずなのに、互いをけなし合い、不毛に消耗し合う正義中毒がどんどん重篤になっているというのは、なんとも皮肉な話です。 元々は人間も動物と同じ、ただ生まれて、食べて育ち、起きて寝て、子を産み育てて死んでいくだけの存在だったのに、なまじ脳を発達させてしまったために、苦しむようになってしまった。互いにバカと罵り合いながら、解決しようのない、そもそも解決する気もない争いを続けているのが人間という種の特徴なのだとしたら、最も悲しい生き物だと言えるかもしれません。
中野信子(脳科学者)