モータースポーツを気軽に楽しめる「D-SPORT&DAIHATSU Challenge Cup 2024」沖縄大会を見てきた
12月21日、ダイハツ工業とSPKはモータースポーツマルチフィールド沖縄(沖縄県沖縄市)にて「D-SPORT&DAIHATSU Challenge Cup 2024沖縄」を開催した。 【画像】JAF国内Bライセンス取得へ向けたモータースポーツへの入り口でもありながらオーナーズミーティングのような気楽さもあるイベントだ このイベントは北海道から沖縄まで全国のダイハツ車オーナー(OEM車も可)に向けたサーキットトライアル形式のクローズド競技(練習会)だ。完走するとJAF国内Bライセンス取得の権利が得られるためモータースポーツへの入り口としても知られている一方で、その和気あいあいとした雰囲気はダイハツ車による大運動会でもあり、オーナーズミーティングのような気楽さも併せ持つ。 天候に恵まれたイベント当日、公式Webサイトによるとエントリー数は30名。気合十分なダイハツファンはもちろん、家族や仲間と一緒にゆったり過ごす人、琉球ダイハツのディーラーチームなどさまざまなタイプの参加者が集まり会場はとても賑やかだ。1台のクルマを2名でシェアするダブルエントリーでの参加も多いが、1人ひとりが十分に走り込める環境が整っている。 内地から参加する熱心なファンもいて、エッセでエントリーした“みよし”さんもその1人。エッセのMT車に乗り継いで現在の車両が3台目とのこと。なんと2024年はこのD-SPORT&DAIHATSU Challenge Cupに全戦出場しているという強者だ。競技志向の大会にも出場している“みよし”さんだが、このイベントは楽しい雰囲気を維持しているところに魅力を感じているそうで大会を通じて全国に仲間も増えたそうだ。 参加車種は新旧コペン、エッセが多いが、商用のハイゼットカーゴやちょっぴり懐かしいL500系のミラなども参加していて見ているだけでもなかなか楽しい。振り返ってみると、現行モデルにもスペシャリティ色の強いコペンがあるとはいえ、かつてスズキ アルトワークスと競ったミラターボやラリーで活躍したストーリアX4、ブーンX4を発売していた頃にくらべダイハツはモータースポーツから少々離れた感じは否めない。 しかし会場に足を運んでみると、ファンによってダイハツ車による走る楽しみは脈々と今に受け継がれているようにも感じる。ちなみにダイハツのモータースポーツといえば現在全日本ラリーやTGRラリーチャレンジにコペンやミライース、ロッキーでD-SPORT Racing Teamで参戦しているが、この大会を主催しているのもダイハツ工業とSPKが運営するこのレーシングチームだ。 開会式ではD-SPORT Racing Teamの代表を務めるダイハツ工業の井出慶太氏があいさつを行なった。冒頭で井出氏はこの沖縄でのイベントが当初3月に予定されていたこと、そしてダイハツ工業の一連の認証申請における不正によりその開催を見送ったことに触れ、途中言葉を詰まらせ会場全体が沈黙するシーンがあった。その大会が年の瀬も押し迫ったこの時期に開催できた感慨は参加者にも伝わったであろう。会場にはそういう空気感があった。 振り返ってみれば、全国的に見てもダイハツ車のシェアが極めて高い沖縄でのイベントは2年近くもブランクができてしまったことになったが、あの時世論がダイハツに何を求めているかを考えれば致し方のないことだろう。紆余曲折の末、不正内容を忘れないということを心に誓い、その気持ちをユーザーに伝えながら2024年のイベントを続けてきたという井出氏は沈黙の後「……すみません。皆さまの励ましをいただいて本当に心から感謝申し上げます。今日は本当に短い1日でありますが、ぜひ楽しんでいただければと思います。ありがとうございます」と締めた。 そんな開会式を終えた後は早速走行開始となる。あとは目いっぱい楽しむだけだ。今シーズンのWRCラリージャパンやTGRラリーチャレンジに参戦してきたドライバーの相原泰祐氏による先導走行でコースを確認したのち午前中は練習走行を行ない、午後からは各車がタイムアタックに臨む。いずれも混走ではないのでクルマの性能や個々の運転技量に合わせ誰もが自分のペースでサーキット走行を楽しめるプログラムだ。 練習走行後、希望者にはD-SPORT Racing Teamの監督を務める殿村裕一氏、ドライバーの相原氏から1人ひとりにアドバイスが伝えられる。自分の運転スタイルやちょっとしたクセを把握するいいチャンスだ。このプログラムは個々のドライビングに対するアドバイスはもちろんだが、自動車の開発に携わっているメーカーの社員ならではのセッティングの提案やパーツ選択についての話も出てくるので、参加者にとって次に走行する際の糧になるだろう。 午後のタイムアタックは1周ごとにタイムが実況されるので、練習走行後のアドバイスを受けていてもついつい右足に力が入ってしまう参加者がいるのはご愛嬌。これら一連の走行でJAFライセンス取得の権利も得られるので、これからステップアップを望む人にとっても大きな一歩となる。 今シーズンのユーザーイベントの最後を飾る沖縄大会を終えた翌週、12月26日にダイハツは東京オートサロン2025への出展概要を発表した。昨年はできなかった発表だ。展示される車両は2024年にWRCラリージャパンやTGRラリーチャレンジにD-SPORT Racing Teamとして出場し、実戦で鍛えてきたコペンやミライースも含まれる。 これらの出展車両について井出氏は「イベントなどで古いクルマを大切に乗っていただいているユーザーを見ていると、ちゃんとサポートしていかなければならないと思うと同時に、今ほしいクルマがないという声も耳に入ってきてしまいます。背が高く広い室内、スライドドアやCVTを備えた使い勝手のいいクルマは生活の足としてのマーケットリサーチの賜物。もちろんそれは正解。でもアクセル踏んで軽い車体をスポーティに走らせる、という想いを遂げられるクルマは思いのほか少ない。そこにどのくらいのマーケットがあるかはまだ見えてこない部分もあるからまだまだ実験的な試みが必要ですが、そんなクルマへの期待感もあると考えています」と語る。D-SPORT Racing Teamが仕様を変えながらラリーに参加し続けているのはまさにそんな試みの一環だ。 リーマンショックにより2008年にダイハツ工業がモータースポーツ活動をやめてもアフターパーツをサポートし続けたSPKと手を組み生まれた「D-SPORT Racing Team」。気軽なクルマの運動会的イベントを開催し、ユーザーに楽しく走る場を提供しつつ競技ライセンスへの門戸を開けること。そしてモータースポーツへの参戦を通じて実験的な試みを続けることはこのチームの2本の柱だ。 今回のイベントでは不正発覚時からユーザーとの矢面に立たされ苦労したであろう琉球ダイハツからも8名がエントリーし、ブーススタッフ5名、応援に駆けつけた人も含め総勢20名近いスタッフがイベントを盛り上げた。このようなまわりの協力によって成り立っているからこその雰囲気が「D-SPORT&DAIHATSU Challenge Cup」にはある。当たり前だがコースを走るクルマは高価なレーシングカーは皆無。女性ユーザー比率が高く、常に庶民の生活の足である安価な軽自動車や小型車ばかりが走るサーキットはまさに街の運動会。タイムは発表されるし、もちろんそれを目標に各エントラントは頑張っているし、順位もつくがその優劣を追い求めている雰囲気はあまり感じない。 「2025年のオートサロンは、しっかりと(昨年できなかった)われわれの会社としての想いと活動計画を発表できればと思っています」と井出氏。お金に余裕のある人はもちろんだが、金銭的にモータースポーツはちょっと敷居が高いなぁと諦めかけていた人や、もっと気楽に走りを楽しみたい人はオートサロンのダイハツブースに足を運んでみてはいかがだろうか。
Car Watch,高橋 学