「わたしの言葉」ってなんだろう? 東京都現代美術館『翻訳できない わたしの言葉』展をレポート
言葉をテーマにした展覧会『翻訳できない わたしの言葉』が、東京都現代美術館で開かれている。この展覧会ではユニ・ホン・シャープ、マユンキキ、南雲麻衣、新井英夫、金仁淑の5人の作品を展開している。7月7日まで。 【画像】『翻訳できない わたしの言葉』展示風景 開幕に先駆けて行なわれた4月17日のプレス内覧会では、同館の担当学芸員、八巻香澄が「言葉や言葉を発する行為を切り口にして、一人ひとりの違いや選択する権利というものを考える機会にしたい」と企画展に込めた思いを語った。 今回の記事では、内覧会でのアーティストのコメントを紹介しながら、展示についてレポートする。
発音には私の遍歴が生きている
―あなたの「わたしの言葉」はどんな言葉ですか? この展覧会では入り口のキャプションにて、まず鑑賞者に問いかける。 内覧会でははじめに、八巻学芸員が展覧会のタイトルについて説明した。 「『翻訳できない』はコミュニケーションができないといったネガティブな意味ではなく、ポジティブな気持ちを込めています。例えば代わる言語がないとか、話している人の魅力とか、翻訳しようにもできないものがある、といったニュアンスです」 「一人ひとり、発音の仕方や言葉の選び方など個性があるものです。一人ひとり違う言葉を喋っている――そう考えたとき、それぞれの言葉を大事にしたいと思って『わたしの言葉』としました」 展示室に入るとまず目に映るのは、ユニ・ホン・シャープの映像作品《RÉPÈTE | リピート》。 ユニは、日本とフランスの2拠点で活動しているアーティスト。《RÉPÈTE | リピート》では、「Je crée une œuvre(私は作品をつくる)」というフランス語の発音を、フランス語を第一言語としている長女に訂正してもらう様子を描いている。 この作品をつくったきっかけについて、ユニがフランス国籍を取ったばかりのときのエピソードを挙げた。年上のフランス人との会話のなかで、ユニが「Je crée une œuvre(私は作品をつくる)」と言うと、何度も聞き返されたうえに「あなたフランス人アーティストなのにこのフレーズを言えなくてどうするの」と叱られた、という。 そのうえで、ユニは「でも、発音っていままで培ってきた口の筋肉だったりするので、私はフランス人アーティストであっても日本で生まれたし、そこには私の遍歴が生きている。この作品をつくったことで、自分の発音で生きていこうと思えました」と語った。