ドングリの味は…? 囲炉裏の上に蓄え、「飢饉食」だった木の実 東北の厳しい自然を生き抜く知恵
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】展示されるさまざまな「木の実」
カシ、ナラ、カシワ…樹木の果実の総称
子育てをしていて、ある「法則」に気がついた。 子どもはいかなる場面でも、足元にドングリを見つけると拾ってしまう。 どんなに駄々をこねていても、泣き叫んでいても、木の実を見つけると、「あ、ドングリコ」と言って、その場にしゃがみ込んで拾う。 遠い昔から人類に引き継がれたDNAなのだろうか? 「おそらく本能なのだと思います」 岩手県北上市にある県立農業ふれあい公園・農業科学博物館の調査員・古川勉さん(68)は、笑いながらうなずいた。 「子どもだけではありません。東北の人はみんな、ドングリが大好き。主要な食べ物の一つだったからだと思います」 ドングリは、狭義ではブナ科のカシ、ナラ、カシワなどコナラ属の樹木の果実の総称だ。 先端がとがり、表面の皮は硬く、上部はすべすべして茶色で、下部はおわん状の「殻斗(かくと)」に覆われている。 岩手では、県北を中心に「シダミ」「シタミ」とも呼ばれる。 「まずい」という意味の「下味」に由来しているとされる。 花巻市出身の古川さんは「私も小さいころは、よく家でドングリを食べました」と振り返る。
凶作の年でも実り、備蓄もできる「飢饉食」
ドングリは大量に採取でき、凶作の年でも良く実る。 腹持ちも良く、アク抜きさえしっかりすれば、食味もそれほど悪くないらしい。 貯蔵性にすぐれ、備蓄もできる。夏に「ヤマセ」と呼ばれる冷たく湿った偏東風が吹きつけ、コメの凶作に悩まされてきた県北の「飢饉(ききん)食」だった。 調理法は、4日以上水につけて虫を殺し、殻が割れるまで天日乾燥後、臼などで潰して実と殻を分ける。 木灰を加えて煮込んでアク抜きをし、一昼夜水に浸し、天日で干す。 生乾きのまま臼でついて粉にし、きな粉をまぶして団子にしたり、ヒエ飯にふりかけたりして食べたという。 備蓄用としては、殻付きのまま30分以上煮た後、天日で4、5日乾かし、保管する。 囲炉裏の上の棚や天井裏で10年以上も蓄えておく場合もあった。