「ラッド ミュージシャン」の1万738日 30周年のショーが“暗かった”理由
変わらない“核”、進化する“型”
30周年のショーは、「お客さんが喜んでくれるから」と黒田デザイナー。「立ち上げからショーを20年間やり続け、ちょっと飽きてきちゃって、やめることにした。以降もブランドを10年間続けさせてもらったのはお客さんがいるからで、彼らが喜ぶ方法で返したかった」。コレクションの大半が真っ黒だったのは、ショー休止後10年間の内向きな気分を表現したから。そして、シロップ16gを引き立てるためだという。
インディペンデントなデザイナーズブランドの多くは作り手の生き様が服に憑依しており、顧客と共に年齢を重ね、クリエイションも徐々に味わい深さが増していくのが通例である。かつて“ロック系”として名を広めた日本のメンズブランドの多くが第一線から姿を消していく中、「ラッド ミュージシャン」が30年間も若年層顧客を獲得し続けてこれたのは、黒田デザイナーの音楽へのあくなき探究心だろう。まるで少年のような興味関心の強さが、結果的にブランドのビジネスも支えている。だから、クリエイションの“核”は音楽だが、“型”は存在しない。シューゲイザーのように、一音一音を繊細に紡いできたかと思えば突然轟音が鳴り響いたり、フリー・インプロヴィゼーションのように偶発的だったりするときもある。
「ラッド ミュージシャン」は、そんな作り手の自由で鋭い感性と、かつてウェディングドレスや衣装製作で磨いた技術、手に取りやすい価格帯で、時代ごとの若者の感性を刺激し続けている。ストリートカルチャーが浸透し始めた1990年代も、ロックテーラード全盛の2000年代初頭も、トレンドが激しく移り変わった2010年代も、黒田デザイナーは自身の衝動と向き合いながら、仮縫いからグラフィックまで、服作りの全工程を1人で行ってきた。そして、きっとこれからも続けていくのだろう。「自分は馬鹿なんで。若い頃と感覚はあまり変わってないし、それしかできないから」。