「五輪の父」クーベルタン男爵はなぜ母国フランスでの評価がいまひとつなのか? 一族の子孫らが語った意外な理由、継承すべき理念とは
▽男爵は1世紀前に男女平等を主張 「フランスの学校でクーベルタンはあまり教えられていない。そこが大きな間違いだ」。近代五輪創始者の理念を受け継ぐ活動を続けるフランスのピエール・ド・クーベルタン委員会で会長を務めるアンドレ・ルクレルクさん(77)は2023年9月にパリで取材した際に課題を指摘した。 確かにパリ五輪期間中、大会ボランティアや組織委員会スタッフと雑談すると「クーベルタンは有名でない」「教科書で学んだこともない」といった反応が多かった。アスリートでも知らない人が少なくないという。 フランス・バレーボール連盟会長を長く歴任し、日本とも交流が深いルクレルクさんは「フランス国内よりも海外での方がクーベルタンは有名だ」と断言し、その上でもっと実像を理解してほしいとも訴える。 「(クーベルタンは)実は1世紀前から、彼は社会において男女平等でなければならないと主張している。フランスで女性が自分の銀行口座さえ持てなかった時代に、彼の考え方は先進的だった。現代の女性進出の流れもきっと喜ぶだろう」と語る。
一方で「当時、女性が体を見せて肉体美で争うようなスポーツに出ることには賛成していなかった。服装には厳しく、つまりロングドレス姿でプレーできるような『女性にふさわしい』と認める競技のみ賛同する考えだった」と解説した。 ▽平和の教育的価値、学校で教える課題も 「平和の祭典」を掲げる五輪の崇高な理念がかすみ、世界で分断が進む時代。男爵の訴えた原点である平和や連帯という教育的価値は、現代にも通じる理念といえる。 「彼の理想はスポーツで若者の心を育み、平和な世界を実現するというシンプルなものだった」と子孫のナバセルさんは強調する。「五輪というのは一つの作品でしかない。古代五輪復興の動機として彼は人間の変革を掲げ、世界中の人々が集まり、戦争が二度とない世界を求めた。そして政治が大会に干渉することを決して望まなかった。戦争の時代はよりこうした理念が重要になり、継承すべき未来への指針となるだろう」と願いを込めた。