株デビューはビギナーズラック!? 世界の鉄鋼王A・カーネギー(上)
アメリカの実業家、アンドリュー・カーネギー。鉄鋼事業で成功を収めた後、教育や文化の分野へ多くの寄付を行ったことから、今日では慈善活動家としてよく知られています。 世界屈指の大富豪と称されるカーネギーの投資家デビューは、意外にもビギナーズ・ラックから始まっていたのです。そんな彼の華々しい投資人生を市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。
触れるものがすべて黄金に化けていく
A・カーネギーにとってペンシルベニア鉄道の支配人トーマス・スコットは終世の恩人である。ある日、スコットからもうけ話が持ちかけられる。 「アダムス急行列車の株は大化けするゾ」との早耳情報である。カーネギーはこの話に飛び乗って10株買った。スコットの予想は的中し、カーネギーは10ドルのもうけにありついた」 「これが投資によって得た最初の収入で、額に汗して働かないで得たお金であった。万歳! と私は叫んだ。金の卵を生むアヒルを私は捕まえたのであった」(坂西志保訳『鉄鋼王カーネギー自伝』) 一般に「早耳には乗るな」といわれているが、カーネギーはそんな「金言」は露知らず飛び付いた。まさに「初心者の僥倖(ぎょうこう)」というべきだろう。 以来、カーネギーは、株はなんとすばらしいもうけ方をするものか、と興味を深める。その一方で、友人と4万ドルを投じて土地を買うと、石油が噴き出して1年後には、100万ドルに暴騰する。やること、なすこと、当たりっ放しで、石油事業に手を出したり、寝台列車を始めたブルマン鉄道の株に投資すると倍値にハネ上がる。ますます相場の醍醐味に魅せられていく。ギリシャ神話のミダス王(※)さながらに触れるものがすべて黄金に化けていくのだった。そしてキーストン株の買い占め」へと発展していく。 ※ミダス王 ギリシャ神話中の小アジアのフリュギアの王。ディオニュソスにより体に触れたものすべてを金に変える力を得たが、のちに後悔してこの力を捨てた。パンとアポロンが音楽の技比べをした際、審判となってパンを勝者としたためアポロンの怒りを買いロバの耳にされたという。