約90兆円市場インドのアグリテック最前線とインドの農業事情
活発化する投資市場
投資家たちの注目も集まっている。直近4年間でインドのアグリテックにおける資金調達はおよそ16億ドル。2022年だけでも114の取引、約1,800億円ものベンチャー投資が行われ、前年比50%増、2020年との比較で3倍の投資額となった。取引額の平均は増加中で、これからスタートアップがこの分野で成熟していくと見られている。特に農業と企業・消費者をつなぐプラットフォームやバリューチェーン全体をカバーするエコシステム、デジタルソリューションといった分野に投資が集中している。 また、インドのアグリテック投資で特徴的なのは、投資先が非常にベーシックであることだ。農業慣行を改善するため、干ばつや害虫、洪水などの天候リスクを回避するための融資や技術への投資であり、先進国での「イノベーティブな食べ物」、植物由来の食品や人工肉といった分野ではない。その結果、投資家たちのアプローチも異なっているとされている。 マッキンゼーのインタビューによると、ベンチャーキャピタル企業は、市場規模、提供するサービスや商品の汎用性、顧客の牽引力、拡張能力、そしてXファクター(新しいテクノロジーを効率的に使用することを習得する学習曲線のような無形のファクター)の5つにフォーカスしていると推測できるとしている。
考慮すべきインド特有の問題
ベーシックな投資ではあるものの、投資家たちはインドならではの特有の問題にも注目しなければならない。アグリテックは、古来の農法を続け、変化を拒む利用者(農家)を取得するのに高額なコストがかかる一方で、取引量はさほど多くない。複数の企業が競合する中で、農家本人のやる気が絡む複雑な問題であるため、複数のタッチポイントや幅広いサービスが必要となり単一のユースケースでは太刀打ちできない。 また、インドの農村部では人とのやり取りを重視する傾向が強い。農村部ではスマホの所有率が75%以上にもなるが、ほとんどの人たちが対面によるデジタルサポートやアプリのインストールを希望しているため、AgrostarやDeHaatなどのアグリテックは、現場担当チームを設置して直接農家と接触し、活動を展開している。 適正な価格であることも重要とのこと。インドに限らず、農家がテック企業からの有料のアドバイスを受けようとする可能性は低いことがその理由。農業分野におけるコンサルティングサービスは、門戸を開く要素であり、金儲けのツールではないと割り切る必要がある。 さらに、アセットライトであることも地理的拡張を迅速に進めていくうえで重要だ。例えばAgriBazaarは、ほとんどの取引で倉庫や品質チェック、輸送を売買する側に移譲することで、固定資産250万ドルに対して流通総額22億5,000万ドルを実現している。物理的なインフラや資産への投資が必要なアグリテックは、設備や施設に投資をする地元の起業家に依存するモデルを構築するのが一般的だ。