ファビアナ・パラディーノが語る80年代R&Bの再解釈、ネオソウルを支えた父ピノから受け取ったもの
80年代シンセサウンドの追求
―ファビアナさんは鍵盤奏者としてもいろんなバンドで演奏していますが、特に演奏を研究したプレイヤーはいますか? ファビアナ:本格的にピアノを始めた10代の頃は、ビル・エヴァンスに夢中だった。私の作品の中にビル・エヴァンスっぽさは聴こえないかもしれないけど、ハーモニー面でとても惹かれた。あと、ダニー・ハサウェイのライブ・アルバムに収録されている鍵盤演奏......ローズかワーリッツァーだと思うけど、凄く好き。それから、私は子供の頃からディアンジェロの大ファンで、彼のライブもたくさん観てきた。ディアンジェロのライブでのピアノ演奏にはもう圧倒されたし、インスピレーションを受けてる。 鍵盤奏者とはあまり認識されていないと思うけど、アレサ・フランクリンも素晴らしいと思う。ピアノは彼女のサウンドの大きな部分を占めているから。アレサのヒット曲の古いデモを聴くと、楽曲の全てが彼女のデモ・バージョンに入っていたピアノ演奏に由来していて、それが楽曲のプロダクションを構成していることがよくわかる。本当に素晴らしい。 ―熱く語ってくれましたが、あなたには「キーボード・プレイヤー」というアイデンティティも色濃くありそうですね。 ファビアナ:うん。他のアーティストのバックで演奏するときは、そのアーティストの音楽に合った演奏をしなきゃいけないし、必ずしも自分が演奏したいものを演奏できるとは限らない。例えば、SBTRKTの音楽は私が今まで聴いてきたものとは全く違うものだったから、彼との演奏は大好きだった。エレクトロニカやダンスミュージックから来ていて、すべてシンセ・ベース。私が初めてシンセを使うことになったのはSBTRKTとの仕事だった。基本的に私がこれまでにやってきたこととはまったく違うアプローチだった。その後、私はジェシー・ウェアのようなポップ/ソウル系を演奏することになった。彼女をシンガーとしてサポートすることが全てだったけど、少し自分のバックグラウンドにあるものやアイデンティティを加えることができたのは良かったと思う。 ―ご自身のアルバムでも、かなりシンセサイザーを駆使していますよね。シンセサイザーを研究したり、集めたりもしていますか? ファビアナ:収集できればいいなぁ(笑)。現在所有しているシンセはJUNO-106とヤマハのDX7を含めた数台だけ。JUNO-106もDX7も80年代前半のもので80sサウンドが出せるんだけど、片方はアナログで、もう一方はデジタル。誰かを研究したかどうかはわからないけど、私はこの時代(80年代前半)の音楽を長年聴いてきた。100%意図的に(自分のアルバムが)こういうサウンドになった訳じゃないけど、私のなかに染み付いていたんだと思う。特にJUNO-106のサウンドが大好きで、このキーボードでアルバムの楽曲を書いた。このサウンドを使うことで、本質的に楽曲制作ができたというか。 そういえば、ジミー・ジャム&テリー・ルイスのプロダクションでは、シンセが使われていることが多いけど、彼らのシンセ・サウンドの使い方は典型的なサウンドとは一線を画している。説明するのが難しいけど、時には物凄くインダストリアルなサウンドに仕上がっていることもあると思う。 ―ジャム&ルイスのサウンドは研究しました? ファビアナ:「研究」はしていないけど、とにかく彼らの作品をひたすら聴いてきた。好きな作品のひとつは、ニュー・エディションの『Heart Break』。アルバム制作期間中に何度も聴いたわ。 ジャネット・ジャクソンの『Control』や『Rhythm Nation 1814』もね。私は彼らのドラムのプログラミングが大好き。とても面白いし、時にはマキシマリスト的。いろんなサウンドが同時に起こっているけど、上手くまとめている。決して大げさに感じたり、圧倒されたりすることはなく、いつも自然で、非常に音楽的。とても音楽的なポップ・ミュージックだと思う。それから、サウンズ・オブ・ブラックネスの「Optimistic」も高揚感があって大好き。ソングライティング面も実に素晴らしくて、よく聴いている。 ―父親のピノさんも弟のロッコさんもベーシストですし、実は家に機材があって、それを使っていたとかあったりします? ファビアナ:実は、DX7は父が発売当時に買ったもの。私は子供の頃から使ってた。我が家は、ご想像の通りベースだらけ(笑)。もちろん、私も何年もベースを弾いてきた。そういえば、少し前にギター・シンセのモジュールを発見したの。何て呼ぶのかわからないけど......最近はMk.geeみたいに、80年代や90年代のシンセ・モジュールを使っているギタリストが何人かいるでしょ。私が見つけたのはギターにMIDIコネクターがあって、デジタル・ペダルみたいな感じのもの。「時代遅れでダサい」って思う人もいるかもしれないけど(笑)、私にはカッコ良く聞こえるから、実はそのサウンドにハマっていて。もっと研究してみようかなって考えてるところ。